週末は福岡でセミナーだったのですが、ペップトークについて簡単に説明してくださいとリクエストがありました。ブログに書いているから読んで下さいね。と言ったのですが、あまり書いていませんでしたね。

 

と言うわけで、10年前に書いていた雑誌の記事の下書きを見つけたので投稿します!

 

【ペップトークとは】

 

英単語でpep talkは激励演説という意味です。スポーツの世界では、試合直前のロッカールームで監督が、選手に話すスピーチの事を『ペップトーク』と呼んでいます。

 

選手にとっての試合は、その日までの努力の集大成を発揮すべき大事な本番です。どんなに小さな大会でも、オリンピックのような大きなイベントでも、選手にとっては本番です。選手への「背中の一押し」となるペップトークでは、肯定的な言葉を選び、成功のイメージを与えます。

 

選手がその日のために、練習やトレーニングで身体を鍛え技術を磨くのと同じように、指導者はどんな言葉を選び、どう表現するか真剣に考え準備するのが、大事な役目なのです。

 

受験生が家庭にいると…「あっ、お箸が、落ちちゃった!」とか「今日、足滑らしてさ、ヒヤッとしたよ!」なんて、日常会話の中でも「落ちる」とか「滑る」を言わないように心がけます。我々日本人は、言葉のもつ力をちゃんと知っていて、大事な時には、ネガティブな連想やイメージを与える言葉を使わないように心掛けています。

 

冠婚葬祭など、その人の人生にも関わるようなイベントでは、タブーとされる言葉が決まっていて、敢えて縁起の良い言葉やストーリーを準備してお話しするようにしていますね。慣例として使われる言葉と、避けるべき言葉があるからですが、状況に合わせて言葉を選ぶのは、円満な人間関係を構築するためにも大事なことです。

 

家庭や教育の世界では、しつけ中や、何かを教える段階(ティーチング)では、してはいけないことを明確に伝えたり、叱ったりすることもあります。これは、して欲しいことを明確にするために必要な対比であればOKです。「道路に飛び出したらダメ」の後には「ちゃんと手を挙げて横断歩道を渡りましょう!」と、して欲しいことを伝えるのがコツです。

 

2011年のなでしこジャパンが、ワールドカップの決勝戦で世界ランキング1位のアメリカと引き分けとなり、PK戦にもつれ込みました。その時に、佐々木則夫監督が選手に言ったのは、「思い切り愉しんで来い!」だったそうです。「ミスするな!」とか「外すな」「負けるな!」といった、して欲しくないことを言うのではなく、して欲しい事を明確に伝える、それがペップトークの基本中の基本です。

 

昔の学校では「廊下を走るな!」ってよく言われていました。「廊下は静かに歩きましょう」と言い換えることができます。張り紙にも、「廊下を走るな」と、して欲しくないことをイメージする言葉が書かれていましたが、「廊下では静かに歩きましょう」と書き換えることができます。トイレの「汚すな」「外にこぼすな」といった表現は、「キレイにお使いいただき、ありがとうございます!」と、して欲しいことに加えてお礼まで書かれるようになりました。

 

駅のホームに向かって階段を歩いていて「駆け込み乗車はお止めください!」と聞こえると、逆に「お!間に合うかも!」とダッシュをしてしまうことがありませんか?もちろん最近では「ホームではゆっくりお歩きください。次の電車をご利用ください。安全運行にご協力いただきありがとうございます。」といったアナウンスが流れるようになりました。

 

「今日は、雨のため床が濡れています。滑って転ばないようにして下さい。」と言われると、「滑る」と「転ぶ」の二つもして欲しくないイメージが描かれます。「足元にお気を付けください」として欲しいことを明確に伝えるよう換言できるはずです。

 

人は言葉を聞いて、それを頭の中で理解して、イメージを描き、行動を起こすそうです。そのプロセスは脳内で一瞬にして処理されます。ネガティブな言葉を聞けば、その結果をイメージしてしまうわけです。だったら誰かに声掛けをする時には、して欲しいことをはっきりイメージできる言葉を選びましょう。

 

乾坤一擲、選手たちが人生のるかそるか大一番を迎えた時、子供が大事な入学試験に向かう時、生まれて初めての発表会の舞台に立つ時、お父さんが会社の大事なプレゼンに向かう時、やっぱり人は何かの本番に向かう時があります。そんな時には、是非、成功のイメージを描ける言葉を選んで、声を掛けて差し上げて下さい。そうすると、きっと「ありがとう」の言葉が返ってきます。

 

人を勇気づける言葉の力は、まず言葉選びから始まります。まずは日常で使っている言葉を少しポジティブに変えてみませんか?