(1)事なかれ主義では介護職員を守れない。
6/1に埼玉で起こったケアマネージャー殺人事件。認知症の母親の世話をする同居の息子による殺人事件である。介護職員から高齢者に対する事件は報道されるのに、高齢者や家族から介護職員に対する事件は殆ど報道されない。それは高齢者や家族は絶対弱者であって、何か問題があれば強者である介護職員の方に問題があると思われてきたように思う。
実際には施設・在宅関わらず介護職員への事件は大小合わせると日常的に起きている。
三菱総合研究所が発行した「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」を見ると、殆どの介護職種で7~8割の事業所が精神的暴力を受けている。また施設では9割の事業所が身体的暴力を受けていると回答している。
しかしそのような状況でも必要な取り組みは「啓発活動」「相互的な確認」「相談しやすい組織体制の整備」など、とても解決しそうもない。更には利用者・家族に対して「やわらかい表現で事業所からのお願い」として周知を行うなど、事なかれ主義のようだ。これで介護職員を守れるわけがない。
ここで考えたのは、なぜここまで介護職員が苦しめられるのか?という事。そして「介護サービス」という言葉にそもそもの問題があると考える。
(2)非常に脆弱な介護事業所。
私が就職した平成初期、介護サービスという言葉は無かったと思う。当時は「措置制度」であり、施設に入る利用者は行政措置として各自治体を経由して入所してきた。それが平成12(2000)年の介護保険制度が始まり、今まで社会福祉法人が担ってきた業界に民間企業が参入する事になった。そしてそこで「介護サービス」という言葉が生まれたと思う。
実際に介護が「サービス業」になった事で良かった点は沢山ある。まず競争が生まれ、接しやすい介護職員が増えたという事。多種多様なサービスが生まれた事。虐待などが報告され、保護することが出来るようになった。こういうことを考えれば介護保険制度が果たした役割は大きい。
しかし問題も多い。まずは職員に支払われる給料が激減した。そして介護サービス事業所は中小零細企業が多くを占め、その経営基盤は脆弱だ。更にサービス業となれば品質向上と顧客満足度を高める努力も必要だが、利用者が亡くなった後、家族へのアンケートなどで事業者へのフィードバックをしている事業所など聞いた事が無い。つまり法的な後ろ盾も無く、何が良い品質なのか定義がないまま今に至る。こうした重大な事件が発生する事は予想されながらも、手を付けてこなかったという事だろうと思う。
(3)つまりこういう事件が起きても真剣に考えようとしない。
記事には①一部の利用者側からの「福祉分野」への過剰な期待②「ストレス」「被害妄想」という心理的要因③「閉鎖性」という環境要因が挙げられている。その通りではあるが、解決方法ではない。
私は「サービス業」であるが故のデメリットが現れたと思う。つまり「お客様は神様」では無いが、サービスを利用する側が優位に立つ。しかもそれが「介護」という極めてセンシティブな場面で行われる。つまりサービスを提供する側は、おかしいと思いながらも利用者や家族の強制に従わざるを得ない事もある。それがシャドーワークを生み、ケアマネ自身の苦しみになっている。
そう考えれば、訪問介護やデイサービスなどはサービス業であろうが、ケアマネはサービス業とは言い難い。そもそも営利法人に属しながら非営利な事を押し付け、代替策も機動的でなくケアマネがやってしまった方が早いシャドーワーク。行政から見れば、こんな使いやすい便利屋は無いだろうと思う。
この事件を受け業界団体は声明を発表したが、ありきたりな文言の羅列だ。県によっては二人体制でなんていう意見も出たが、勘違いも甚だしい。ただでさえ人がいないのに、どうやって二人体制など取れるのか。つまりこういう事件が起きても、真剣に考えようとしないのが今の介護だと思う。つまりこのような事件は起こるべくして起きたし、これからも起きるだろう。
