(1)そもそもなぜ民間で始めたのか
介護保険が始まるにあたり、ケアマネの確保が急務になった。そこで勤務経験のある人に資格取得を促した。第1回目の試験はどうだったのかは分からないが、施設から民間への転職者も多かっただろうと思う。
その当時から言われていたのだが、居宅介護支援事業所を単体で行うには赤字事業になると言われていた。今の地域包括支援センター、以前は在宅介護支援センターと言っていたが、その予算も低く、こんな報酬でやって行けるのかという話を聞いたことがある。
しかし居宅介護支援事業所というのは、お客様が最初に来る窓口でもある。介護保険サービスを行おうとする事業所は訪問介護やデイサービス、福祉用具などをできる範囲で拡大したいが、集客方法として居宅介護支援事業所を併設するのがセオリーである。つまり居宅介護支援事業所の赤字を他のサービス事業で補うしかない。
おそらく制度設計の方のそのつもりだったのだろう。
民間で働いていた人がケアマネを取ったからと言って、行政が囲い込むという事は予算的にも難しい。介護穂さんサービスを行う事業所に、「集客出来ますよ」というニンジンをぶら下げて赤字事業を押し付けることにまんまと成功したのだ。
(2)業務の実態とは
①サービス事業所からの連絡処理は大変
そんなこんなで始まった介護保険だが、最初の頃は混乱ばかりだった。サービス事業所もどこまで裁量が任されているのかも分からないから、例えば訪問介護で10分遅れただけでケアマネに連絡し、場合によっては提供表を作り直してもらう、なんてこともザラにあった。
ケアマネの机にはポストイットがべたべた張られ、連絡が欲しいという事業所に電話をすれば大したことのない事ばかり。これだけでもストレスだったろうと思う。
逆にサービス事業所もケアマネが捕まらないから相談も出来ないし、何よりもどこまでの連絡をしなければいけないかが分からないから、何でも電話した。ひどいのになると訪問介護が「今日行けるヘルパーがいないんですけどどうしましょう?」とケアマネに電話する事もあったという。そんなことは自分たちで何とかしろよ!と言いたいところだが、そんな事すらケアマネに判断を委ねるのが当たり前の時代もあった。
②要領の悪さが目立つ
それでケアマネはというと、やはり忙しい人は多かったと思うが、大体において要領の悪さが原因だったと思う。
例えば私の例で恐縮だが、利用者の所に行くにはパソコンとスキャナーを持っていく。被保険者証などはそこでスキャンして、そこで入力する。場合によっては経過記録もそこで隠し、必要があればその場でサービス事業所に連絡する。
しかし多くの人は被保険者証を自社に持って帰ってコピーして、また利用者に返しに行くという二度手間があり、記録や連絡も帰ってから行うという事になる。それでは連絡し忘れたり記録を忘れたりという事だってあるだろう。何よりもその場で書いてしまえば、それで済む話という事をしなかった。
そういう努力もしないで「忙しい振り」をしているケアマネもいただろうと思う。
③経営者からの期待
経営者にすれば、最低でも実務経験が5年あるケアマネには期待を寄せるところだ。何よりもお客さんの入り口となる。自社にどれだけの利用者を呼び込めるかはケアマネ次第とも言える。
そして自社のサービスを使って利用者が気に入らなかったら、ケアマネがそのクレームを受けることになる。しかし経営者からすれば、それも当たり前。自社に貢献する事を求めるのは当たり前だが、公平中立をうたうケアマネと齟齬が生まれる。そして貢献を求められれば「儲け主義の経営」と揶揄され、人間関係は崩れていく。
経営者にすれば、何よりも赤字事業である居宅介護支援事業を、他のサービス事業で賄ってやっているんだぞという気持ちもある。そのような対立構造は決して良いものにはならなかった。
④行政指導も
そして行政の方も運営指導やケアプランチェックなど、重箱の隅をつつくような指摘をし、場合によっては報酬を取り上げ、改善報告書という反省文を書かせる。
こうしてケアマネはどんどん披露し、燃え尽きていくのだ。
(3)やる気をなくさせないために
最近の調査でも居宅介護支援事業所の閉鎖が増えているという。当然のことだ。記事ではケアマネの公務員化という提案をしているが、私はそれに賛成の立場だが、おそらく実現は難しい。
そうであれば「寄り合い居宅介護支援事業所」というのはどうだろうか。
令和9年4月から居宅介護支援事業所の管理者はすべて主任ケアマネが担う事になる。私のように主任ケアマネの意義を感じられず、それであれば廃業するという事業所もあるだろう。そういう人は各地域で集めて、合同居宅介護支援事業所で行うというものだ。
勤務は在宅でOK。使うソフトは統一し、給付管理・請求業務は共同で雇う事務員が行うというもの。
雇用関係は、正社員でも非正規でもOK.場合によっては件数による出来高でもOK。私のように法人を持っている人は外注費にしてもらうとか。
それであれば参加してよいなと思う。
そもそも赤字事業を民間に押し付けるスタイルというだけで失礼な話だ。しかもそれが時代を追うごとに集中減算として、一つの事業所に紹介する割合を制限したり、それを越えた場合は自治体に報告義務を課す。明らかに民間の経営スタイルではない。そもそも非営利な事を営利企業にやらせるというだけでおかしな話なのだ。
完全死に体のケアマネはどうなるか?