とても頑固な利用者さんだった
お前たちは来ると
みんなこう言う
暑いですね
寒いですね
雨ですね
そういうのが大っ嫌いだ
夏は暑いのが当たり前！
冬は寒いのが当たり前！
雨は外見ればわかる！
当たり前のこと言ったって
しょうがないだろ
子供がどうとか旦那がどうとか
くだらない話ばかりしやがって
そうですね～
と言いながら心でつぶやいていた
なんてへそ曲がりなの～
ある日
自転車で転倒し手足に怪我をして
大好きなお風呂に入れなくなった
サービス責任者から
「体を拭いてさしあげて下さい」
と言われた私は
その方の身体介護は初めてで
少しドキドキしたが
清拭は得意だった
ところが予想外に頑固一徹
素直に応じるわけがない
自分でできると言い張るも
肩が上がらない状態
こうなったら強硬手段！
熱々のお湯を洗面器に入れて
熱々のホットタオルを用意し
冷めないうちにお背中拭きましょう
気持ちいいですよ～
タオルを目の前にお持ちするも
背中くらい自分で拭ける
さっき言っただろ！
しつこいと怒りが爆発して
血圧が上がっても困るし
ダメでしたと責任者に報告しよう
と片付け始めた時
そんな困った顔すんなよ
拭けばいいんだろ
立ち上がり
タオルを私から取り
見てろ！こうやってな…
柱に（柱がある古い家だった）
タオルを巻き始め
私にきつく結んでくれ！と言った
そして白シャツを脱ぎ
柱に背を向け
結んだタオルを背中に当て
体をすりすり～と左右に動かしたのだ
ほら！拭けてるだろ！
まいりました
なんて素晴らしい発想
療養中の90歳とは思えぬ
精力的な行動
思わず胸キュン
これぞ男だー！と思いました
でもよく考えると…
わざわざ柱に巻かなくても
拭かせてもらったほうが早いし
タオル冷めずに済んだかも…と
そんなこと言うと
あちらの世界から降りて来て
何も学んでなかったのかよ！
と怒られますね
今でも忘れない人
忘れてはならない人
大好きな私のお師匠さん
訪問するたび
太平洋戦争の話を聞かせてくれた
仲間と遺体を担いで歩いていると
力の抜けた遺体の手や足が肩に
乗っかかってユラユラ揺れて
ぞっとしたと話していた
聞いている私もぞっとした
ここを弾丸がかすっていったんだ
腕の傷跡を見せてくれた
生きるための強い心を
学ばせていただきました
今でもしっかり目に焼き付いている
柱に背中をすりすり～している姿と
どや顔
素敵でしたが笑えた
マンガみたいな光景
絵が描けたら描きたかったな
最後までお読みくださって
心から感謝しています
ありがとうございました