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12月 24日   16:45


出麹は官舎を飛び出し、大通りを目指した。
身を突き刺すような新潟の寒風が襲う。
太陽はすっかり弱っていた。
コートのポケットから革手袋を取り出し、足の回転を速める。
頭の芯での思考-いつもと同じ作業、状況をまな板に並べ、料理していく。
足りないものがあれば、そこに糸口があった。
だが・・・・・いつもと決定的に何か。
ネタに包丁がスムーズに通らない。
頭に霞が掛かる。
出麹は大通りで流しのタクシーを止めた。

思考の継続-足が小刻みにリズムを刻み、眉間の皮が伸縮していた。
奇妙な癖・・・・・

出麹は国家公務員上級試験合格後、警部補の身分で実習勤務に入った。
いわゆるキャリア組だ。
警察大学校卒業後、出麹の階級は警部となる。25歳だった。
28歳になり、今の新潟県警察本部に配属された。
警備局の公安三課、順当なキャリア組の出世街道である。
だが、ここに来る前の3年間職場を共にしていた人間は、彼をこう表現していた。


~ヤツはイカレテイル~


何が?


~接してみればわかる・・・・・もうあいつのことは聞かないでくれよ、オッカネエ・・・~

公安三課の任務は、反政府主義団体(左翼系団体)の監視である。
出麹は4ヶ月前から新潟中央署管轄区域で行動していた。
上層部からある過激派左翼団体の監視任務を受けていたからである。
出麹が『潮風シャークス』に入団したのは2ヶ月前だ。
チームは海岸沿いの「みりかグラウンド」で毎週日曜日に試合や練習を行っていた。
出麹の人生に野球経験はない。野球が好きなわけでもない。


-つまり『目的』があり、『仕事の為』であったー

畑山宣夫(32歳)との接触、これが真相だ。
畑山は出麹がマークしていた過激派左翼団体の構成員でもあり、潮風シャークスの一員でもある。
県警公安三課では活発化するこの団体に密偵を必要としていた。
団体の動きをつぶさに報告させる為・・・。


密偵を団体内に作り出す方法は様々である。
デモ等、何らかの団体活動に参加・署名した一般人に「アルバイトをしないか」と持ちかけ、団体に加盟させる。そして他の構成員と仲良くなるように指示し、情報を聞き出すのだ。
また、敷居の高い団体においては、すでに内部にいる人間をスパイに仕立て上げたりもする。
共通の趣味を持つと装ったり、パーティー等で接触し、親密になったところで「公安」という身分を明かし、他の活動家に「公安との接触」を知られたくなければ・・・と迫ることもある。
これらの作業過程には現金を使った買収や半ば脅迫に近いものまで、何でもありだ。

出麹は団体構成員で活動歴の浅い、畑山に白羽の矢を立てた。
畑山は教師の同僚に誘われ、最近団体の会合に参加するようになったばかりであった。
それ故、ガードが甘く接触がたやすい。
まさか草野球のメンバーが自分にスパイ工作を仕掛けてくるとは考えない。
過激派団体の重要細胞ならば、見知らぬ者に不用意な接近を許す事はありえず、住所や本名などを活動家仲間以外に知らせることもない。

出麹は充分に時間を掛け、畑山に接近した。
週一回の草野球を終え、家の方向が同じだと偽っては夕食に誘った。
近付く口実として4ヶ月前にこの新潟の地に足を踏み入れた事実が何かと役に立った。
右も左も分からない出麹を、畑山は弟分のようにかわいがった。


また、職業・性格を偽った別個に人間を演ずることに出麹は長けていた。
この任務も自ら志願した。
新潟中央署で出麹の面倒を見るベテラン巡査部長は気が気でなかった。
キャリア組は中央からの大切な預かりものである。
実際これだけの危険が伴う現場作業をキャリア組が担うことは珍しい。
だが、出麹は鬼気迫る形相で迫った。



・・・・・オレニヤラセテクレ セキニンハオレガトル・・・・・