【 5 】
1980年(昭和55年) 12月 24日 16:24
-新潟-
古びた木造アパートの一室。
新潟県警公安三課・出麹正也の耳に、電話がけたたましく鳴り響いた。
出麹は毛布にくるまりながら受話器を取った。
冷気がどこからか吹き込んでいる。
この寒さにはまだ慣れない。
・・・・・もう夕方か・・・・・
夜勤明けの体がけだるい。
「はい、出麹」
「益田です。お休みのところすいません」
いつも冷静沈着な部下の声に、焦りの色が混じっていた。
「かまわない、どうした?」
「出麹さん・・・・・沢村泰介という男を御存知ですよね?」
唐突に鼓膜に飛び込んできた、予想外の男の名。
出麹は一瞬、間を取った。
「・・・・・ああ、知っているが・・・・・どうした?」
「実はその沢村が消えました」
「・・・・・」
部下の言葉が吸収されない。
寝起きだからではなかった。
遠くを彷徨っていたまなこを自分の右手に戻した。
出麹は受話器を耳に押し付けたまま、布団を抜け出した。
寝間着を剥ぎ取り、準備に取り掛かる。
「どういうことだ、沢村とは昨日の夕方まで一緒にいたのだぞ」
「そうですか・・・・・では、その後すぐに消えています」
「どこまで状況が取れている?」
出麹は益田が『消えた』という言葉を、2度も使ったことが引っ掛かった。
「沢村は日曜日の昨日、草野球の試合を終えた後、小学生の娘を絵画教室へ迎えに行ったそうです」
「その通りだ」
「本日午前、一晩中探し続けた妻から『主人と娘が帰ってこない』との通報が入りました」
「午前・・・・・なぜもっと早く俺に報告しない」
「いや、我々も出麹さんが沢村と知り合いだったことを、先程知りましたので・・・・・」
「・・・・・分かった。上層部の指示は?」
「出麹さんは沢村家に直行してくれ、とのことです」
「了解、今どこだ?」
「沢村家です」
「分かった。では後で」
受話器を置き、ペンを手に取る。
コートを片手で引っ掴み、鏡を覗き込む。
鏡面が時折ギラギラちらついた。
窓がガタガタと耳障りな音をたてている。
ゼブラのカーテンの隙間から、不気味な程に鮮やかな、オレンジの夕日が差し込んでいた。
・・・・・キエタ・・・・・