デカワンコ case 2
「八辻の手毬唄殺人事件」

八辻産業グループ会長
八辻道隆氏の邸宅で
他殺と見られる男性の変死体が発見された。




幾棟にも渡る壮麗な日本家屋が、
錦鯉の泳ぐ池も湛える広大な庭園に聳え立っている。
きれいに芝生で整えられた庭の真ん中に、
身元不明の男性の他殺死体が横たえられていた。


既に警察の捜査は始まっていた。
所轄の大瓦署の捜査員たちは、
敷地内に慰留品がないかと、捜査している。
鑑識も入って、死体を調べている。

花森刑事も到着した。
が、留められた。
身分をを提示しているのに。

「警察手帳を疑われちまったら、どーしよーもないですな」
「キリ〜〜何とかしろ」

お仕事はそこから。

「ガイシャは40代くらい。
死亡推定時刻は昨夜の八時から九時
死因は射殺、眉間に銃槍。
至近距離から一発打たれています」

こいつはひでーな。
顔がわかりにくいですね。
その割には周りがきれいじゃねーか
足跡痕ひとつない。
おそらく犯行現場は別でしょうね。
血の海だったはず。

ワンコがキリの背中にトンと顔を預けた。

「テメー!人の服でゲロ押さえてんじゃねえ!!」


第一発見者には家の方で待ってもらってあった。
八辻家の御隠居様と、お手伝いさんの増田フクだ。
待ちくたびれて、御隠居様は縁側に座ったまま眠っている。
お手伝いさんは小刻みに震えている。

「死体を見つけたのはあなたがたですか?」
「いいええ」
「えっ!?」
「私まだ 独身でございます」
ああ
「亡くなってる男性は、知らない方だということですが?」
「いいええ」
「えっ!?」
「御隠居様は99。私はまだ93でございます」
「ああ・・・なるほど」
なるほど。


他にいねえのか?と問うと聞き込みは済んでいて、
通いの家政婦、山本奈津子(78)
「昨日はいつも通り8時ごろ帰りました」
運転手の真田友蔵(86)
「昨日は休みで、娘のところにいってました。
離れに住んでおりますが、帰ったのは10時ごろでした」
と証言した。
当主道隆氏は夫人とともに海外旅行中で不在。
「すると、犯行時刻にこの家にいたのは、
孵化したばかりのヒヨコみてーなばーちゃんふたりだけってことか」

何者かが死体を運び込んだのは確かだが、
一体誰が?
どうやって?


そこにお手伝いのフクが刑事を呼びに来た。
「御隠居さまがお目覚めになられて
手毬唄を聴いてほしいとおっしゃってます」

おちょくってんのかボケてんのか、
どっちかっしょ、とキリ。(*1)

他の捜査員もげんなり顔の中で、
「手毬唄の中に事件の謎を解くヒントが隠されているのですね!!」
とはりきるワンコ
「よーし
それじゃ花森、お前ら行って謎を解きまくれ!」
「はい!!」
「ら?」


「わしは八辻八重子。父は子爵の八辻盛隆。
一人娘のわしは生まれた時からこの家に住んでおる。
庭で男がしんでおるのを見て思い出したのじゃ」そういうと、座敷でまりを突きながら、八重子が歌い出す。

一辻一族丸ぼーず
二辻の兄さん丸ぼーず
三辻もみんなが丸ぼーず
四辻の四男丸ぼーず
五辻の後家さん丸ぼーず
六辻は婿さん丸ぼーず
七辻なんでも丸ぼーず
八辻の八重ちゃん器量良し

ええ!?

庭の死体と丸ぼーずと、何の関係もねーし

そう、死体は別に丸ぼーずではなかった。
でもそんなキリを一喝
「だまって最後までききんしゃい!」

そのまま柳が助けに行くまで
八百十まで聴いてる二人。(*2)


あぐらかいて居眠りしてたキリはともかく、
正座で拝聴していたワンコは足が痺れて廊下で転んでしまい、そこにあった車椅子につまずいてしまう。

おいおい何やってんだ、大丈夫か?と手を貸す柳だが(*3)ワンコの鼻がヒクーン!車椅子に登りかかって調べ始めた。
冷静に見守る柳とキリ。


車椅子の持ち主は御隠居様だという。
お年のわりには足腰もお丈夫ながら、
お出かけの時はお持ちになるんだとか。

真顔になるワンコに柳が尋ねる。
「どうした?」
「コレ臭います
あの庭の・・・ガイシャの臭いがします」

吐きそうになったあとに、「よく調べろ」と死体に突き出されていたワンコ。ちゃんと臭いをチェック済みだった。
少なからず驚く柳と、
「出ましたよ〜『臭います』が」とキリ。


不気味な手毬唄を聴いたけど、
謎は解けたのか、ワンコ!!?



*1  ビンゴ!いい勘してるねえ。

*2 ボケてないことが証明されてしまったな。ということは・・・。
 しかし、聴いてみたかったね。九辻から八百九辻まで、どうやって丸ぼーずにしたのか


*3  優しい!ワンコはあらゆるところで転んでいるが、手を貸したのはこの時の柳だけかも。
あ、わかんない、他にあったら訂正しますが、暫定で、この時だけ、かも!!
私は結構、きゅんときちゃったんだけど、ワンコは来なかったのかなあ?