新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬として日本でも昨年12月25日に特例承認されたモルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)(くすり×リテラシー2021年12月18日)について、FDAがMOVe-OUT試験(NEJM 2022; 386:509-20.)の中間解析で緊急使用許可(EUA)を認めた(FDA2021年12月23日)点(日本も特例承認の際に中間解析(7.3%対14.1%)で評価しています。審査報告書11ページ)を、BMJのエディトリアル(BMJ. 2022;376:o443)が“premature”と批判していました。

 

その理由として挙げられていたのは、以前の記事(くすり×リテラシー2021年12月6日)にも書きましたが、主要評価項目であるday29までの入院または死亡は、中間解析ではモルヌピラビル群7.3%(28/385)、プラセボ群14.1%(53/377)、差は6.8%ポイントだったのに、最終結果ではモルヌピラビル群6.8%(48/709)、プラセボ群9.7%(68/699)で、差は3.0%ポイントに縮まっていた(ちなみに差の95%信頼区間の上限はわずか0.1%)ことです。エディトリアルは最終結果について「境界線上の有意性(borderline significance)」であり「ほんのわずかな誤判定があったら、調査結果の有意性が覆される可能性がある(even a small number of misclassified outcomes could overturn the significance of the findings)」と述べています。その通りです。

 

さらに、Merck社のプレスリリースに効果が相対リスクで書かれていた(一般に相対リスクは数値が大きくなるので効果が大きい印象を与える)点について「世論および科学的見解を、実質的な利益があるという信念に固定化する(アンカリングする)ことにより、認知バイアスを作り出した(This created a cognitive bias by anchoring public and scientific opinion to a belief in substantial benefit. )」と述べ、モルヌピラビルへの期待を無闇に高めたとしています。これもその通りだと思います。

 

筆者自身も、いったんモルヌピラビルが特例承認されたら、薬の効果量から関心が離れてしまい、いかに早く患者に送り届けるか(くすり×リテラシー2021年12月25日2022年2月25日)を考えてしまっていました。注意しないといけないと思います。

 

(2022年4月26日追記)

モルヌピラビルの臨床試験の問題点を(さらに)指摘する浜先生のレターが4月26日に発表されました(BMJ. 2022; 377:o977.)。

 

(2022年5月3日追記)

上の浜先生のレターの日本語訳です(薬のチェック速報版No.204,2022年4月28日)。