新型コロナウイルス感染症(COVOID-19)に関する、同じレジストリを用いた2本の論文(LancetおよびNEJM)が相次いで撤回(くすり×リテラシー2020年6月6日)された件で、BMJに分析記事(BMJ. 2020; 369: m2279.)が載っていました。テーマはデータの透明性です。

 

 撤回された両論文は、Surgisphere社(同社のウェブサイトは本日時点でアクセスできなくなっています)が収集したデータを用いていました。論文への疑義が表明されて以後、著者らは独立した第三者によるピアレビューを行うと表明しましたが、BMJの記事によると同社は「守秘義務違反とクライアントとの合意」を理由にデータを渡すことを拒否しました。そのため著者らは論文の撤回を余儀なくされました。

 

 LancetやNEJMは、COVID-19研究に関するウェルカムトラストのデータシェアリング声明(Wellcome Trust2020年1月31日)に署名しています。ですが、研究公正の専門家はBMJの取材に対して「この声明は研究のシェアと普及に焦点を当てており、情報のガバナンスや研究公正については言及していない」と、声明の限界を指摘しています。企業側から「元データは出せない」と言われれば、それ以上のアクションが起こせなかったのでは、と推察されます。

 

 未発表データの問題については、タミフル(一般名オセルタミビル)をめぐるBMJのキャンペーン活動が有名です。そのきっかけになったのが、タミフルを含むノイラミニダーゼ阻害薬のコクランレビューに対する林敬次先生の疑問でした。キャンペーンの結果、最新版のコクランレビュー(2014年)で企業の内部データを含めて統合した結果、薬の効果が考えられていたより小さいことが分かりましたた(Cochrane2014年5月9日)。このレビューを手掛けてきたノルディック・コクランセンターのトム・ジェファーソン氏はBMJの記事で「タミフルから何も学んでいない」と手厳しくコメントしています。

 

 レジストリ研究は、ランダム化比較試験(RCT)のように被験者を一から集める必要がなく、かつ、多人数のデータがすぐに集まるので、COVID-19のような新興感染症の研究では特に有用です。今後も様々な分野でレジストリ研究が行われるでしょう。その一方で、解釈の難しさ(くすり×リテラシー2020年5月26日)に加えて、データの透明性に関しても、課題があることが分かりました。論文を読むときも気をつけないといけないと思います。