新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬として期待され、米国で緊急時使用許可(EUA)を得ていたヒドロキシクロロキンやクロロキン(くすり×リテラシー2020年4月1日)に関しては、EMA(EMA2020年4月23日)やFDA(2020年4月24日)が副作用を警告していました(くすり×リテラシー2020年4月24日)。さらに5月22日、有益性が確認できなかったとする結果がLancetに発表されました(Lancet published online on May 22, 2020. DOI: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31180-6)。

 

 ざっくりしたPICO(と結果)は以下です。

P:COVID-19で2019年12月20日から2020年4月14日に入院した患者(9万6032人)のうち、

I:クロロキンやヒドロキシクロロキン(±マクロライド)を使用した患者(1万4888人)は、

C:それ以外の患者(8万1144人)に比べて

O:入院中の死亡(主要アウトカム)や心室性不整脈(副次アウトカム)がむしろ多かった

 

 もっとも、この研究はRCTではありあせん。レジストリを基にしたコホート研究です。そのため著者らはI群とC群とを比較するにあたり、特定された交絡因子の影響を排除するためにCox比例ハザード回帰分析という方法で解析しました。考察部分でも「ヒドロキシクロロキンやクロロキンの治療レジメンで生存が低かったことは注意して解釈すべきだ。観察研究であるため、未知の交絡因子の可能性を否定できない。とはいえ我々は主要解析とプロペンシティスコアでマッチさせた解析(論文の附録に載っている)とが一致していることを確認した」と、慎重に述べています。

 

 とはいえこの研究結果の影響力は大きく、WHOはこの結果を受けて、実施中の「連帯」試験(くすり×リテラシー2020年4月3日)のヒドロキシクロロキン群の一時的な中止を決めました(WHO2020年5月25日)。

 

 10万人近い参加者、しかも直近まで入院していた人も含めるのは、RCTでは極めて困難です。今後はRCTでなく、レジストリ(たとえばCIN)を用いたリアルワールドデータ(RWD)の研究が、医薬品の評価を含む様々な分野で使われるようになるでしょう。RCTのような厳格な選択/除外基準にあてはまらない、多様な患者が研究対象に含まれる点はメリットですが、ランダム化されない分、解析手法が難しくなり、一種のブラックボックス化する(そして、都合のよい結果のみが表に出てくる)ことには注意しないと、と思います。とはいえ統計は難しい……。