ある日、愛莉ちゃんはママと保育園に行く途中、畑のはしっこで小さな青いガラスのかけらを見つけました。
かけらは一つだけぽつんとさみしそうに落ちていました。
愛莉ちゃんは青いガラスの色がとってもきれいだったので、しゃがみこんで触ろうとしました。
けれど、「ガラスの破片は触るとケガを するから触っちゃダメよ」と、ママに止められてしまいました。
青いガラスは、雨が降る日も、風が吹く日も、毎日同じ場所でじっとしていました。
あの青いガラスはどこから来たのかなぁ?誰の物なのかなぁ?
愛莉ちゃんは、青いガラスを見るたびに思いました。
そしてある日、保育園のお散歩であの青いガラスがある畑の横を通りました。
愛莉ちゃんは、青いガラスがある場所まで来ると、すばやく座り込み、青いガラスにそっと手を触れてみました。
青いガラスはひんやりとしていました。
「こんにちは、愛莉ちゃん」
すると、どこからか聞いたことのない可愛らしい男の子の声が聞こえました。
愛莉ちゃんは、キョロキョロと辺りを見回しましたが、園児服を着たお友達と、ピンクのエプロンを着た先生しかいませんでした。
「愛莉ちゃん、行きますよ」
先生に言われて、愛莉ちゃんは慌てて立ち上がると、皆と一緒に歩き出しました。
さっきのは誰の声だったんだろう?
愛莉ちゃんは首をかしげました。
ユウちゃんじゃないし、ケント君でもないし…… 。
「僕だよ、僕」
今度はさっきよりもずっと近くから声がしました。
「ここ、ここ」
愛莉ちゃんが声のする方を見ると、園児服のポケットから青いガラスがピョンピョンと顔を出していました。
「あ、青いガラス!」
愛莉ちゃんはびっくりしましたが、すぐに皆に見つからないように青いガラスにしーっと言うと、ポケットの中に押し込みました。
青いガラスは、触ってもちっとも痛くありませんでした。
愛莉ちゃんは、保育園に戻るとすぐに青いガラスをポケットから園児バックに移し、
「静かに待っててね」
と小さな声で言いました。
「うん、わかったよ」
青いガラスも小さな声で答えました。
「先生さようなら。皆さんさようなら。 」
保育園が終わり、ママが迎えに来ました。
愛莉ちゃんは、園児バックを大事に首からかけ、ママと手をつないで帰りました。
「あら、青いガラスがなくなってるわね」
ママが畑を見て言いました。
愛莉ちゃんはそれを聞いてふふっと笑いましたが、青いガラスをママが見たら怒られるかもしれないと思って「本当だね」とびっくりしてみせました。
「昨日の雨でどこかに流れていってしまったのかもしれないね」
ママは残念そうに言いました。
「うん、そうかもしれないね」
愛莉ちゃんも、同じように残念そうに言いました。
家に帰ると、愛莉ちゃんは手を洗い、すぐに園児バックから青いガラスを出して二階の部屋に行きました。
「もう大丈夫だよ」
愛莉ちゃんは、そっと青いガラスを持った両手を開きました。
青いガラスは、部屋の中をピョンピョン飛んで見て回ると、
「ここはどこなの?」
と聞きました。
「ここは、私のお家よ。青いガラスさん」
と、愛莉ちゃんが言いました。
すると、
「僕はガラスじゃなくて空のかけらです」
と言いました。
「空のかけら???」
愛莉ちゃんは、びっくりして言いました。
「カラスさんに空から切り取りとられて落ちて来たんだけど、ちょうど土の上に落ちたから割れずにすんだみたい」
空のかけらはそう言うと、愛莉ちゃんの肩の上でピョンピョン跳ねました。
「どうしてカラスさんは空のかけらさんを切り取っちゃったの?」
愛莉ちゃんはそっと青いガラスを手で捕まえると手のひらにのせて聞きました。
「それはね、絵を描くためだよ」
空のかけらは言いました。
「絵を描くため?」
愛莉ちゃんには何のことだかさっぱり分かりません。
「そうそう。カラスさんは大きな夜の空をくちばしで切り取って、その穴から太陽の光が見えるようにして空に絵を描いているんだよ」
と、空のかけらは言いました。
愛莉ちゃんは、うーんと言って考え込みました。
「んー、それって空を切り取るとお星様になって、それで絵を描いてるってこと?」
「そうだよ!その通り!」
空のかけらは座っている愛莉ちゃんの目の高さまでビョンビョンとはねながら言いました。
「でも、カラスさんはいったいなんの絵を描いているの?」
「うーん、それは僕には分からないんだ。それに、空はすごぉく広いから、もし絵が完成したとしても大きすぎて誰にも分からないと思うよ」
と、空のかけらは言うと、申し訳なさそうに床にぺったりとはりついてしまいました。
「ところで、僕愛莉ちゃんにお願いがあるんだ」
空のかけらはすっくと起き上がると、愛莉ちゃんに言いました。
「なぁに?」
「実は僕、お空に帰りたいんだ……」
空のかけらは悲しそうな声で言いまし た。
「どうして?私と一緒にここにいたらいいのに」
愛莉ちゃんも悲しくなって言いました。
せっかく出来た新しいお友達なのに、いなくなってしまうなんて悲しすぎます。
「僕も一緒にいたいんだけど、いつ粉々に割れちゃうか分からないくて怖いから空にいたいんだ」
「でも、空に戻っちゃうとまたカラスさんに切り取られちゃうかもしれないよ?」
愛莉ちゃんは空のかけらの事が心配になりました。
「うん、わかってる。でも、僕は空にいて、切り取られちゃったら星ができるけど、 ここで割れちゃったら何も残らないから……だから やっぱり空に戻りたいんだ」
空のかけらはそう言うと、黙り込んでしまいました。
愛莉ちゃんも黙ってしまいました。
長い時間二人は何もしゃべらずじっとしていました。
続く