日本の水墨画の礎を築いたといわれる巨匠、雪舟の作品に「鎮田瀑図」という大作があります。このモデルになったのは豊後大野市の沈堕の滝です。1467年、雪舟は大野の地を訪れ、この名作を描き上げました。それから600年以上が経ち、人々の生き方や価値観は全く変わってしまいましたが、沈堕の滝は、変わらず流れ続けています。さて大分バスの路線網は、昔に比べると小さくなりましたが、それでもいまだに広大です。この雄大な水墨画の舞台にも路線を通して、滝の傍らに大野橋というバス停があり、人が2,3人も入ればいっぱいになってしまいそうな待合室がぽつんとあります。大野橋を通り、三重から田中へと行くバスは、深く幽玄な谷沿いに走っていきます。雪舟が訪れたころは室町時代ですから彼は徒歩でこの地を訪れたのでしょうが、今はバスというあの時代の人たちには考えられないような乗り物が、この雄大な水墨画の舞台の中を走っています。最終バスが大野橋を通る午後五時半、次第に闇が強くなり、辺りはモノトーンの景色に染まっていきます。雪舟が水墨画で表したかったのは、この時間帯の大野の山野であったのかなと、ふと思いました。

2023年12月23日撮影 大野竹田バス田中線