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『知りたい』という欲望。(コーチング体験その2)
初めてのホリスティック・ライフ・コーチング。(アンフォールド立野博一さん)
受話器を持ったまま立つように促された私は、
ゆっくりと立ち上がり、
なんとなく足を揃えて立ってみた。
「では、今そこに立っている自分をよく感じてみてください。」
その言葉に、無意識に目蓋を閉じていた。
(今 現在の自分を感じる・・・)
そう意識を集中した途端、
ふうっと閉じた目蓋の内側で
無意識に『もうひとつの目蓋』を開いて外を眺めていた。
「感じることができましたか?」
「はい。私は今とてもとても開けた草原のような所に一人で立っています。
遠くの方に山脈が霞んでみえます。
見渡す限り、少しグレーの混じったような青い空が広がっています。
まるでモンゴルかどこかのような寒い北の方の場所みたいです。
どこにも人の影は見えません。私は一人でここにいます。」
(ああ なんて 広い所なんだろう)
高い高い、殆ど白にも見えるような、
瓶覗の空の上の方を早い風が吹いていた。
私の周りでは足首ほどの高さの若緑の草がどこまでも揺られていた。
私は旅人のようななりをして、ただ一人立っていた。
薄汚れてあちこち擦り傷を作った旅人のような私は
どこにも人の気配などないその場所で、
何にも束縛されず、自由で、
とても充実した気持ちでいっぱいになっていた。
「前を見てみましょう。
一歩二歩実際に前に歩いてください。
何が見えますか?」
そういわれて私は
素直に一歩二歩と足を前へ出した。
そして意識を前方に向けた瞬間、私は、
さっき遠くの方に霞んで見えていた
あの薄墨色の山脈の中に入り込んでいた。
背の高い木々に囲まれた空はとても小さく
山の中は薄暗くひんやりとして、
それでいて山独特の湿った土と苔の良い香りが漂っていた。
しかしそれよりなによりも、
もっと大切な事は、
私の真正面すぐ近くにあるものが現れていた。
「さっきとても遠くに見えていた山脈の中へ入ってしまいました。
この山は下草が刈られ枝も打たれ、
とてもよく綺麗に手入れされている山です。
檜が沢山植えられています。
これは誰か人の手によって植えられたものでしょう。
フィトンチッドというのでしょうか?
針葉樹や苔の出す山の湿った良い香りがしています。」
そこまで一気に話した私は、
目の前に今見えているものを、
なんと説明したら良いだろうと躊躇った。
何故ためらったのかと言えば
単純に説明するのが恥ずかしかったからなのだが。
「そして、えーと・・ですね・・
あの、実は目の前に人がいます。
いえ、その本当の事言えば、人じゃないと思うんですけど。
あのですね、まるで西遊記か何かに出てくるような
立派な鎧を身に着けた真っ赤な朱色の肌をした人が
私の真ん前にいるんです。
後ろに何人か手下のような人がいるみたいです・・」
私はどうにもきまりが悪くて
その決まりの悪さを誤魔化すために
意味もなく奇妙に明るい早口でもって
一気に説明をし終わった。
「じゃあ 周りを見てみましょう。何が見えますか?」
立野さんの声は、私とは対照的に
淡々と落ち着いていて
そしてゆっくりと進行を進めていく。
「左側にはたぶん何か少し大きな道があるみたいです。
それを行けば街があって人がたくさんいます。」
(右側は・・・)
この時私には 右側にも道があるのが見えていた。
その道は石畳で舗装されているけれどとても古くて
ほとんど草の中に埋もれかけていた。
そしてこの道は
ずっと昔には異国の人の往来があった道なのだろうというところまで
見てとれていた。
しかし 何故だかその時私はそのことは口をつぐんでいた。
「じゃあ 今度は後ろに一歩下がってみましょう。
後ろには何が見えますか?」
「後ろには森があります。森の後ろには深い山」
その森は私が草原に出る前に抜けてきた森だった。
森の中には色んな動物や人、
楽しそうな団らん、
一見魅力的なものいろんなものがあった。
けれど、それらはどれだけ魅力的に美しく見えても
どれもどこか感情的で感覚的で
私にはひどく俗っぽく獣じみた物に見えていた。
この森はそういうものを中に隠している。
「私 この森には近づきたくありません」
(この中に、もう一度入りたくない)
私はそう思った。
そこには、まるで人情や友愛や家族愛に隣人愛
そんなものが溢れているように一見見える。
でも それらは
人情に似ているもの 友愛に似ているもの
家族愛に似たもの 隣人愛に似たもの に過ぎなかった。
(その4に続く)




