それは 窓の向こうに
雲ひとつない鮮やかな青の空が広がった とある昼下がり
大きく開け放たれたその窓からは
レースのカーテンを揺らしながら
穏やかな風が通り過ぎていきます
頼りなげに ゆらゆら揺れるその白いレースの様はまるで
遥か遠い異国のポルトガルで
ストレスにさらされて揺れ動く
るみ子さんその人の心持を思わせるようでした
「・・・・というわけなんです」
るみこさんは それまでの経過を一通り話し終えると
私の様子を伺うかのように声を途切れさせました
誰しも初めて話す相手との会話なら
当然緊張をするものです
まして それが楽しい話でも ビジネスの話でもなく
自らの身の上に降りかかった怪しげな話であるならば
それはなお一層のこと
どのように どこから話すべきなのかと
緊張はいや増すものだと思います
けれど このときのるみ子さんの声からは
いったい自分の状態はなんなのか
そしてそれは改善するのか
はたまた このハヌルという人は
いったいぜんたい 本当に「視える人」なのであろうかと
ただ 初対面の見知らぬ相手に内情を訴える緊張だけではない
錯綜する不安な心持を押し隠そうとするかのような
そんな声色を私は感じ取っていました
るみ子さんが語るそれは
確かに壮絶な物語でした
単なる妬み 単なる嫉妬
そこから始まった同僚からの嫌がらせは
態度や言葉による攻撃はもちろんのこと
やがて激しい恨みの思いへと凝り固まるようになり
ひたすらにるみ子さんが
不運に見舞われるように願い
生霊となって付きまとい
その挙句自身の執念を飛ばして
がんじがらめに縛り上げていったのです
「るみ子さん」
私は それまで閉じていた瞳を開けて
PCのモニターに映し出された
るみ子さんの画像を正面から見つめ
思い切って切り出しました
「ひとつ聞きたいことがあります
るみ子さんは 物理的には
まだ攻撃されてはいませんね?
例えば 突き落とされるなど 怪我をさせられるような
そういうことはまだ無いですね?」
「は・・はい ないです」
ヘッドセットの向こう側から
るみ子さんの緊張が伝わってくるような気がして
私は軽く息を吸い
ぐっと腰を落ち着かせると
背筋を伸ばしなおしました
「呪われていますね」
再び軽く 息をすうと
私は今度は一気に言葉を吐き出しました
「るみ子さん あなたは間違いなく呪われていると思います」
(やっぱり・・・!!)
うららかな午後のひととき
ベランダの向こう側から
ちゅんちゅんという
のどかな 雀の遊ぶ声が聞こえてきます
その穏やかな日常から
まるで 私たち二人だけを暗闇が切り取るかのように
ポルトガルのるみ子さんが
不安から軽く上ずった声を上げるのを
私は耳にしていたのです
(3)に続きます

雲ひとつない鮮やかな青の空が広がった とある昼下がり
大きく開け放たれたその窓からは
レースのカーテンを揺らしながら
穏やかな風が通り過ぎていきます
頼りなげに ゆらゆら揺れるその白いレースの様はまるで
遥か遠い異国のポルトガルで
ストレスにさらされて揺れ動く
るみ子さんその人の心持を思わせるようでした
「・・・・というわけなんです」
るみこさんは それまでの経過を一通り話し終えると
私の様子を伺うかのように声を途切れさせました
誰しも初めて話す相手との会話なら
当然緊張をするものです
まして それが楽しい話でも ビジネスの話でもなく
自らの身の上に降りかかった怪しげな話であるならば
それはなお一層のこと
どのように どこから話すべきなのかと
緊張はいや増すものだと思います
けれど このときのるみ子さんの声からは
いったい自分の状態はなんなのか
そしてそれは改善するのか
はたまた このハヌルという人は
いったいぜんたい 本当に「視える人」なのであろうかと
ただ 初対面の見知らぬ相手に内情を訴える緊張だけではない
錯綜する不安な心持を押し隠そうとするかのような
そんな声色を私は感じ取っていました
るみ子さんが語るそれは
確かに壮絶な物語でした
単なる妬み 単なる嫉妬
そこから始まった同僚からの嫌がらせは
態度や言葉による攻撃はもちろんのこと
やがて激しい恨みの思いへと凝り固まるようになり
ひたすらにるみ子さんが
不運に見舞われるように願い
生霊となって付きまとい
その挙句自身の執念を飛ばして
がんじがらめに縛り上げていったのです
「るみ子さん」
私は それまで閉じていた瞳を開けて
PCのモニターに映し出された
るみ子さんの画像を正面から見つめ
思い切って切り出しました
「ひとつ聞きたいことがあります
るみ子さんは 物理的には
まだ攻撃されてはいませんね?
例えば 突き落とされるなど 怪我をさせられるような
そういうことはまだ無いですね?」
「は・・はい ないです」
ヘッドセットの向こう側から
るみ子さんの緊張が伝わってくるような気がして
私は軽く息を吸い
ぐっと腰を落ち着かせると
背筋を伸ばしなおしました
「呪われていますね」
再び軽く 息をすうと
私は今度は一気に言葉を吐き出しました
「るみ子さん あなたは間違いなく呪われていると思います」
(やっぱり・・・!!)
うららかな午後のひととき
ベランダの向こう側から
ちゅんちゅんという
のどかな 雀の遊ぶ声が聞こえてきます
その穏やかな日常から
まるで 私たち二人だけを暗闇が切り取るかのように
ポルトガルのるみ子さんが
不安から軽く上ずった声を上げるのを
私は耳にしていたのです
(3)に続きます
