朱珠ちゃんに確認したいことがあったので
話の半分を記入せずにアップしてしまいました
先ほど確認しなおしましたので
本来つけるつもりであった
「光る手。」というタイトルに改題し
加筆修正させていただきます
今日は朱珠ちゃんの
ちょっと不思議な体験談のひとつをお話しよう
朱珠ちゃんはかつて
学校の研修等で2度ほど北朝鮮に行ったことがある
そのうちの一度は一月余りという長丁場だ
(ちなみに彼女のだんな様は半年ほど行っていた)
ホテルの一室で寝泊りしながら
さまざまな研修を受けたり
あちこち観光に行ったりしていたある夜のことだった
もともと朱珠ちゃんは寝つきが悪く
なかなか眠ることができないのだが
そのときもやはり
慣れない土地での慣れない生活のためか
神経が疲れ過ぎてかえって眠りがたかった
朱珠ちゃんにとって
ここ北朝鮮は父祖の土地に当たるし
もともと彼女は北朝鮮籍でもあって
自分の国に来たという思いは
もちろんあったのだけれど
やはり慣れぬ土地には変わりなく
楽しい中にも緊張があったのであろう
何度も何度も寝返りを打ち
夜はどんどんと更けていく
そうこうする内に
いつしかふと とろとろと
まどろみはじめていたのだった
頃はもう 一番星が空の高みへ昇るころ
朝特有の涼しい風が空気を洗い流して
閉じた窓の向こうに見える
遠い遠い朝鮮の山の端が白々と白んでいた
一瞬ぐっすりと眠った朱珠ちゃんは
はっと何かを感じて目が覚めた
寝ぼけた頭で部屋の中の様子を伺うが
何事もないかのように
部屋はしんと静まり返っていた
もともと眠りの浅い朱珠ちゃんのこと
いつものように
ちょっとした何かで
うっかり目が覚めてしまったのだろうと
再び眠りにつこうと思うそのとき
何かが彼女の神経に引っかかる
ん・・・?
彼女は何気なく
まだ閉じていたまぶたを開けた
するとなんと目の前には
男の顔があったのだ
は・・? なんだ?
朱珠ちゃんは まだ回らぬ頭で
ぼんやりとその顔を見ていたが
だんだんと意識がはっきりとしはじめ
誰か見知らぬ男の人が
なんと自分のベッドで
一緒に横になっていることに気がついたのだ
つまりお互い顔を付き合わせた形で
添い寝をしあう状態である
しかしそのとき朱珠ちゃんは
なぜだか少しも驚くことがなく
かえって妙な安心と
穏やかな気持ちに包まれていたらしい
その男の人はまだ若く
とても痩せていて
顔には泥と土がついたような
汚れがあるのが見て取れた
そして彼は汚れてほつれたような
朝鮮の軍服を着ており
朝まだきの薄暗い部屋の中で
ぼおっと青白い光を放っていたのだそうだ
そして ただただじっと
朱珠ちゃんを見つめていたのだという
朱珠ちゃんは
ああ この人はかつて亡くなった兵隊さんだ
きっと私がこの国に帰って来たのを
喜んで可愛く思って出てきてくれたのだ
なんて優しいのだろう
そう思い 思わず涙がこぼれるような
切ない気持ちで心がいっぱいになったそうだ
軍人さんに表情はなかったが
その全身から放たれている
なんともいえぬ慈しみの気配が
朱珠ちゃんには十分に伝わっていたのだという
そのままふと気がつくと
知らぬ間に朱珠ちゃんは眠りについていたらしい
朝が来て集合の時間ぎりぎりに飛び起き
朱珠ちゃんは慌てて身支度をして部屋を飛び出した
それから何日かが何事もなく過ぎていった
昼間の間は様々な研修や行事ごとで
目がまわるように忙しく
体も随分と疲れてはいたが
そこは若さゆえなのか
朱珠ちゃんは
結構楽しい北朝鮮ライフを送っていたようだ
もちろん出される食事はかなり質素だったので
当時もともと随分とほっそりしていた朱珠ちゃんですら
帰国後驚くほど痩せていたそうだが
(彼女はそれを「北朝鮮行くだけダイエット」と呼んでいる)
そしてそんな日々の中で
再びそれは起こった
それはまたある夜のことだった
その頃になるとさすがの朱珠ちゃんも
疲れがピークに達していたのか
その日はいつもと違い割合すっと眠りについていた
温かくもなく寒くも無いほどよい室温の中
少しかび臭いような布団をかぶり
朱珠ちゃんはすうすうと気持ちよく眠っていた
ところが突然前触れもなく
ぱちっと目が覚めたのだ
恐らく夜もとっぷりとふけて
深夜2時過ぎ程だったではなかろうか
朱珠ちゃんが眠っていたベッドは
片方の壁にぴったりと引っ付けられていた
唐突に目が覚めた朱珠ちゃんは
自分が白い壁に向かい
体を横にして眠っていたことに気がついた
ところがふと気がつくと
何かがちらちらと目の端で動いている
なんだろう・・・?
真っ暗の部屋の中
目の前の壁がぼんやりと白く見えるだけなのに
何かが動いていた
ふと目をそれにあわせて見る
するとそれはなんと
人の手 それも腕から先であった
まるで壁の中から湧き出ているかのように
青くうっすらと緑の燐光を放ちながら
青白い手がひらひらと朱珠ちゃんへと伸びていたのだ
それはまるで蝋でできているかのように
とても美しかったと朱珠ちゃんは語る
「いくつの腕が伸びてたんかわからんのやけど
とにかくぼわ~っと青白く光る綺麗な手やったんやわ
それがねぇ 私の頬を頭を
いかにも可愛ええとでも言うように
撫でて撫でてしてくれたんよ
なんでか私のことを
愛しい可愛いと思ってくれてるのがわかったん
本当に優しく優しく撫でてくれてたんよ
撫でられながら私 なんでかまるで
小さな子供になったような気持ちがしてたわ」
今思い出してみても
あのぼんやり光る美しい手たちは
人の何かだという気がしないと彼女は言う
「何か性別を超えたもの
言葉にすると変やけど
精霊とか何かの精とか
なんかそういう感じがしたわ」
このときも朱珠ちゃんは怖ろしいと思うことなく
いつの間にかまたスヤスヤと
眠りの淵へ落ちていったのだった
北朝鮮ではいろんな思い出がたくさんできたが
これも珠ちゃんにとっては
懐かしい故郷を訪ねた思い出の中の
ひとつとなっている
生きている間に関わること無く過ぎても
もちろん血縁関係がそこに無くとも
こうして想いを寄せてくれる存在があるということ
繋がる血のなせるもの
民族という血が運ぶ物
言葉でなく理屈でなく
そういうことがあると
私が教えてもらった話であった
話の半分を記入せずにアップしてしまいました
先ほど確認しなおしましたので
本来つけるつもりであった
「光る手。」というタイトルに改題し
加筆修正させていただきます
今日は朱珠ちゃんの
ちょっと不思議な体験談のひとつをお話しよう
朱珠ちゃんはかつて
学校の研修等で2度ほど北朝鮮に行ったことがある
そのうちの一度は一月余りという長丁場だ
(ちなみに彼女のだんな様は半年ほど行っていた)
ホテルの一室で寝泊りしながら
さまざまな研修を受けたり
あちこち観光に行ったりしていたある夜のことだった
もともと朱珠ちゃんは寝つきが悪く
なかなか眠ることができないのだが
そのときもやはり
慣れない土地での慣れない生活のためか
神経が疲れ過ぎてかえって眠りがたかった
朱珠ちゃんにとって
ここ北朝鮮は父祖の土地に当たるし
もともと彼女は北朝鮮籍でもあって
自分の国に来たという思いは
もちろんあったのだけれど
やはり慣れぬ土地には変わりなく
楽しい中にも緊張があったのであろう
何度も何度も寝返りを打ち
夜はどんどんと更けていく
そうこうする内に
いつしかふと とろとろと
まどろみはじめていたのだった
頃はもう 一番星が空の高みへ昇るころ
朝特有の涼しい風が空気を洗い流して
閉じた窓の向こうに見える
遠い遠い朝鮮の山の端が白々と白んでいた
一瞬ぐっすりと眠った朱珠ちゃんは
はっと何かを感じて目が覚めた
寝ぼけた頭で部屋の中の様子を伺うが
何事もないかのように
部屋はしんと静まり返っていた
もともと眠りの浅い朱珠ちゃんのこと
いつものように
ちょっとした何かで
うっかり目が覚めてしまったのだろうと
再び眠りにつこうと思うそのとき
何かが彼女の神経に引っかかる
ん・・・?
彼女は何気なく
まだ閉じていたまぶたを開けた
するとなんと目の前には
男の顔があったのだ
は・・? なんだ?
朱珠ちゃんは まだ回らぬ頭で
ぼんやりとその顔を見ていたが
だんだんと意識がはっきりとしはじめ
誰か見知らぬ男の人が
なんと自分のベッドで
一緒に横になっていることに気がついたのだ
つまりお互い顔を付き合わせた形で
添い寝をしあう状態である
しかしそのとき朱珠ちゃんは
なぜだか少しも驚くことがなく
かえって妙な安心と
穏やかな気持ちに包まれていたらしい
その男の人はまだ若く
とても痩せていて
顔には泥と土がついたような
汚れがあるのが見て取れた
そして彼は汚れてほつれたような
朝鮮の軍服を着ており
朝まだきの薄暗い部屋の中で
ぼおっと青白い光を放っていたのだそうだ
そして ただただじっと
朱珠ちゃんを見つめていたのだという
朱珠ちゃんは
ああ この人はかつて亡くなった兵隊さんだ
きっと私がこの国に帰って来たのを
喜んで可愛く思って出てきてくれたのだ
なんて優しいのだろう
そう思い 思わず涙がこぼれるような
切ない気持ちで心がいっぱいになったそうだ
軍人さんに表情はなかったが
その全身から放たれている
なんともいえぬ慈しみの気配が
朱珠ちゃんには十分に伝わっていたのだという
そのままふと気がつくと
知らぬ間に朱珠ちゃんは眠りについていたらしい
朝が来て集合の時間ぎりぎりに飛び起き
朱珠ちゃんは慌てて身支度をして部屋を飛び出した
それから何日かが何事もなく過ぎていった
昼間の間は様々な研修や行事ごとで
目がまわるように忙しく
体も随分と疲れてはいたが
そこは若さゆえなのか
朱珠ちゃんは
結構楽しい北朝鮮ライフを送っていたようだ
もちろん出される食事はかなり質素だったので
当時もともと随分とほっそりしていた朱珠ちゃんですら
帰国後驚くほど痩せていたそうだが
(彼女はそれを「北朝鮮行くだけダイエット」と呼んでいる)
そしてそんな日々の中で
再びそれは起こった
それはまたある夜のことだった
その頃になるとさすがの朱珠ちゃんも
疲れがピークに達していたのか
その日はいつもと違い割合すっと眠りについていた
温かくもなく寒くも無いほどよい室温の中
少しかび臭いような布団をかぶり
朱珠ちゃんはすうすうと気持ちよく眠っていた
ところが突然前触れもなく
ぱちっと目が覚めたのだ
恐らく夜もとっぷりとふけて
深夜2時過ぎ程だったではなかろうか
朱珠ちゃんが眠っていたベッドは
片方の壁にぴったりと引っ付けられていた
唐突に目が覚めた朱珠ちゃんは
自分が白い壁に向かい
体を横にして眠っていたことに気がついた
ところがふと気がつくと
何かがちらちらと目の端で動いている
なんだろう・・・?
真っ暗の部屋の中
目の前の壁がぼんやりと白く見えるだけなのに
何かが動いていた
ふと目をそれにあわせて見る
するとそれはなんと
人の手 それも腕から先であった
まるで壁の中から湧き出ているかのように
青くうっすらと緑の燐光を放ちながら
青白い手がひらひらと朱珠ちゃんへと伸びていたのだ
それはまるで蝋でできているかのように
とても美しかったと朱珠ちゃんは語る
「いくつの腕が伸びてたんかわからんのやけど
とにかくぼわ~っと青白く光る綺麗な手やったんやわ
それがねぇ 私の頬を頭を
いかにも可愛ええとでも言うように
撫でて撫でてしてくれたんよ
なんでか私のことを
愛しい可愛いと思ってくれてるのがわかったん
本当に優しく優しく撫でてくれてたんよ
撫でられながら私 なんでかまるで
小さな子供になったような気持ちがしてたわ」
今思い出してみても
あのぼんやり光る美しい手たちは
人の何かだという気がしないと彼女は言う
「何か性別を超えたもの
言葉にすると変やけど
精霊とか何かの精とか
なんかそういう感じがしたわ」
このときも朱珠ちゃんは怖ろしいと思うことなく
いつの間にかまたスヤスヤと
眠りの淵へ落ちていったのだった
北朝鮮ではいろんな思い出がたくさんできたが
これも珠ちゃんにとっては
懐かしい故郷を訪ねた思い出の中の
ひとつとなっている
生きている間に関わること無く過ぎても
もちろん血縁関係がそこに無くとも
こうして想いを寄せてくれる存在があるということ
繋がる血のなせるもの
民族という血が運ぶ物
言葉でなく理屈でなく
そういうことがあると
私が教えてもらった話であった