亡くなった父与左衛門が夢に現れたことを
捨吉は自分の胸にしまっていた
ところが明くる晩のことである
ひとり布団に横になった捨吉が
2階の自分の部屋で
とろとろと眠りにつこうとしていたときのことだった
がたがたがたがた・・・
突然大きく部屋のふすまが音を立てはじめた
え? ばあさまやろか・・・
幼い捨吉はその音で目を覚ますと
一瞬育ててくれている祖母か祖父が
何かをしているのだろうかと訝った
がたっ
ふいに音が止む
しーんとしたその静けさは捨吉の耳をうつようで
どことなく恐ろしいような怖いような気持ちになる
遠くから聞こえてくる夜のしじまを抜けるような犬の鳴き声が
幼い捨吉をさらにびくっと怯えさせた
なんでも ないやい
自分を安心させるように
薄暗がりの中そっと目を開けてみる
目に映るのは暗闇にぼうっと浮かぶ木の天井ばかり
ほら なんでもない
怯える自分に言い聞かせるようにして
勢いよく寝返りを打つと
ちょうど顔がふすまのほうを向く格好になった
なんでも ないやん やっぱり
ほうっと小さなため息をついて
目を閉じようとした瞬間
がたっ
目の前のふすまが再び音を立てた
捨吉がふとふすまへと目をやったとたん
すぅっと音も無くすべるようにふすまが開く
え? お婆さん・・・・?
ふすまを開けたその人影が
真っ暗な廊下にぼんやりと見える
くらがりの中に浮かぶその白い影は
やがてついっと部屋の中へ滑り込んだ
あっ!!
それが誰だか気がついたとき
捨吉は恐怖で氷ついた
その顔 その白い着物姿
そう それは 前の晩夢の中で出会った
亡き父 与左衛門その人が
今まさに捨吉の目の前に立っていたのだ
お お父さん・・・・! どうして!!
布団の中で恐怖のあまり声もでぬ捨吉を
与左衛門は ただ ただ
じいっと黙って見つめていた
そしてこの夜から与左衛門は
捨吉の部屋のふすまをがたがたと鳴らしては
夜毎部屋の中に現れるようになり
さすがの捨吉も
これは普通ではないと祖母に訴えかけた
ところが捨吉の話を聞いた当の祖母は意に介さず
何かを見間違えているのだろうから
くだらぬことを考えるでないと
かえって幼い捨吉を叱り飛ばした
そうして捨吉の元へ与左衛門が現れだしてから
いったい何日がたったのか
ある朝祖母が起きてこない捨吉を叱りに部屋へいったところ
祖母がどれだけ声をかけようと
どれだけ身体を揺らそうと
捨吉は目を覚まさなかった
慌てふためいた祖父母が医者を呼びつけてみても
捨吉は眠りに落ちたまま
その日から 捨吉は目を覚ますことはなく
やがて どんどんとやせ細っていったのである
----------------------------------続く
捨吉は自分の胸にしまっていた
ところが明くる晩のことである
ひとり布団に横になった捨吉が
2階の自分の部屋で
とろとろと眠りにつこうとしていたときのことだった
がたがたがたがた・・・
突然大きく部屋のふすまが音を立てはじめた
え? ばあさまやろか・・・
幼い捨吉はその音で目を覚ますと
一瞬育ててくれている祖母か祖父が
何かをしているのだろうかと訝った
がたっ
ふいに音が止む
しーんとしたその静けさは捨吉の耳をうつようで
どことなく恐ろしいような怖いような気持ちになる
遠くから聞こえてくる夜のしじまを抜けるような犬の鳴き声が
幼い捨吉をさらにびくっと怯えさせた
なんでも ないやい
自分を安心させるように
薄暗がりの中そっと目を開けてみる
目に映るのは暗闇にぼうっと浮かぶ木の天井ばかり
ほら なんでもない
怯える自分に言い聞かせるようにして
勢いよく寝返りを打つと
ちょうど顔がふすまのほうを向く格好になった
なんでも ないやん やっぱり
ほうっと小さなため息をついて
目を閉じようとした瞬間
がたっ
目の前のふすまが再び音を立てた
捨吉がふとふすまへと目をやったとたん
すぅっと音も無くすべるようにふすまが開く
え? お婆さん・・・・?
ふすまを開けたその人影が
真っ暗な廊下にぼんやりと見える
くらがりの中に浮かぶその白い影は
やがてついっと部屋の中へ滑り込んだ
あっ!!
それが誰だか気がついたとき
捨吉は恐怖で氷ついた
その顔 その白い着物姿
そう それは 前の晩夢の中で出会った
亡き父 与左衛門その人が
今まさに捨吉の目の前に立っていたのだ
お お父さん・・・・! どうして!!
布団の中で恐怖のあまり声もでぬ捨吉を
与左衛門は ただ ただ
じいっと黙って見つめていた
そしてこの夜から与左衛門は
捨吉の部屋のふすまをがたがたと鳴らしては
夜毎部屋の中に現れるようになり
さすがの捨吉も
これは普通ではないと祖母に訴えかけた
ところが捨吉の話を聞いた当の祖母は意に介さず
何かを見間違えているのだろうから
くだらぬことを考えるでないと
かえって幼い捨吉を叱り飛ばした
そうして捨吉の元へ与左衛門が現れだしてから
いったい何日がたったのか
ある朝祖母が起きてこない捨吉を叱りに部屋へいったところ
祖母がどれだけ声をかけようと
どれだけ身体を揺らそうと
捨吉は目を覚まさなかった
慌てふためいた祖父母が医者を呼びつけてみても
捨吉は眠りに落ちたまま
その日から 捨吉は目を覚ますことはなく
やがて どんどんとやせ細っていったのである
----------------------------------続く