このたび私が経験したことは
まさに体験であり
私にとって 真実の意味での
『百聞は一見にしかず』 でありました
そのすべてをつまびらかにするには
あまりのことで少し勇気が必要です
恥をさらしたくないという気持ちが
私にすべてを語らせないのです
それでも この経験によって得たことを
私自身が忘れないために
記しておきたいと
今 書き始めています


幼い頃から 私は頭痛もちだった
大人になるにしたがって
市販の痛み止めで治まることが少なくなり
いつのまにか 私は
この痛みを薬でおさめるという考えを捨ててしまっていた
ただ お守り代わりに鎮痛剤を飲み
まるで効かなくても 
自分でできることはしたのだからと
後はふとんの中で丸くなって
ただ時間をやり過ごしていた

なにしろ私にとって『痛み』は頭痛だけではなかった
焼け付くような胃の痛み
一晩中続くくせにけして吐く事の出来ぬ嘔吐感
枕に頭を下ろせばひどくなる激しい耳鳴り
その他にも数限りない痛みが幼い私を襲いつづけ
ただ ただ 我慢し暮らしてきた
誰にでも あることなのだと
我慢できないのは私が甘えているからなのだと
いつからなのか 
私の中にはそんな思いが宿っていたのだった

ところがそれは 
今年の春先のことだった
後 2、3日で
出張セッションの準備にはいらねばならぬという日
いつものように なんの前触れもなく
割れるような頭痛に襲われた
1日たち 二日たち
頭痛は治まるどころか 激しい嘔吐感を伴って
私は歩くこともつらいほどになっていた
しかしなんとか セッションの当日には治まって
無事その回の出張を終えることはできたのだった
けれど なんとしたことなのか
それから 私は毎回同じ苦しみを味わうようになっていた
やがて ひどいときには 
当日の朝新幹線に乗る前に
頭の三叉神経に
鎮痛麻酔薬を注射してもらわねばならぬほどになっていた

それでも 私はこの痛みを
自主的にどうにかしようという気持ちにはなっていなかった
もしも私が仕事をする身でなければ
誰かが私を養ってくれる身の上であったならば
この痛みの期間を寝て過ごして
どうにかやり過ごしていただろう
私の母がそうだったように
けれど 私は ひとりで食べていかねばならなかった
食べていくということは 仕事をせねばならないうことだ
そのためにはこの頭痛を
さすがにどうにかせねばならない時がきたような
そんな気持ちが生まれていた

N病院では 私はすでにお手上げの患者だった
毎月 車椅子に乗せられて処置室で注射をされている私に
先生はついにこういったのだ

「あなたの頭痛は 異常なストレスによるものです
今回から鎮痛剤とともに ○○○を出しますから」

○○○
それは とても有名な心の薬
そして私には効かないクスリ

「先生 私 それまったく効かないんですけど」

「そんなはずありませんから! 
とにかく痛み止めと一緒に 
痛くなりかけたら即座に飲んでください」

かつていやになるほど処方され
そしてまったく効果がなかったそれを
先生は効くはずだといいはるのだった

痛む頭と効かない薬を抱えながら
うんざりし自宅へもどった私のもとへ
一通の手紙が届いていた
差出人は 某公の機関
その中には ある書類が入っており
そしてその書類を作成するために
あるところへいく必要があることが書いてあった

あるところ
そこは Sクリニック
それはかつて私が何年かお世話になったところ

『頭痛のために○○○を出しますから!』

N病院の医師の声が蘇る

Sクリニック
それは かつて私の頭痛の原因を特定したクリニック

書類を机に放り出しながら
このタイミングでSクリニックか・・・・と
何かに図られているような気持ちと
割れんばかりの痛みの中で
そうならそうで 乗ってやろうじゃないかという
むやみな冒険心とがぐるぐると混ざり合う

そうして 翌日私は
3年ぶりにSクリニックのドアを開けることとなったのだった

続く