ゆうべアニメ版ミヨリの森を見た
あまりテレビを見ない私は
すっかり忘れていたのだが
子供達は最初から見ていたので
途中から私も参加して見ることになった

ご覧になった方には今更だと思うが
簡単にあらすじを書いておこう
とはいえ 私も前半は
作業をしながら見ていたのでちょっと曖昧

ミヨリは頑なな小学生の女の子だ
幼いころから両親の不仲を見て育ち
学校ではクラスメートのいじめにあっていた
挙句母は家を捨て
ミヨリ自身も父の実家へ
半ば捨てられるように追いやられた
都会育ちのミヨリには
田舎は何もかもがつまらない
しかし森へ忍び込んでいったとき
そこには今までみたこともない
異形のものたちがいた
彼らは優しくミヨリの名前を呼びかける
ミヨリには覚えがなかったのだが
幼い頃ミヨリは彼らと友達になり
この森の守り神になるように選ばれたのだという
守り神に選ばれたものだけが
様々な精霊達を見て話すことができるのだ
精霊たちと関わるうちに
この村がダム建設で沈むことを知るミヨリは
ダム計画のため
真実を捻じ曲げる人々を目の当たりにする
それとともに
自分も永遠に続く循環の中のひとつだと理解し
他者と心を寄り添わせることを理解していく
銃を持ち村へとやってきた業者に対し
村を守りたい子供たちと
そして精霊とともに
ミヨリは行動を起こしたのだが・・

私にとっては何故だか
とても懐かしい思いのするアニメだった
精霊たちの姿がどこか
日本昔話のようでありまた
昔のムーミンに出てきそうな姿だったせいでもある
なにより村の小学校
あれはまさに私が通っていた
分教室そのままだった
私は小学校のとき分校よりも
さらにさらに小さい
分教室というものに通っていたのである
(中学の外観もアニメそっくりの木造だったのだが)

分教室は4年生までしかない学校で
5年生になると本校まで通うことになっていた
山の斜面に立てられた小さな古い平屋の校舎は
私の父もそして祖父もかつては通っていた
家庭科室も理科室も音楽室も
なんにもない学校だった
もちろんプールはあるはずもなく
夏になると週に一度
本校までバスでいっては借りていた
それどころかなんとトイレは汲み取りですらない
よくかつて中国旅行で噂になった
あの「ドアのないただの溝」である
ただし先生用は汲み取りになっていて
ちゃんとドアもついていた

4つ並んだ教室を繋ぐ廊下には
子供の腰の高さまでしかない本棚が備え付けてあって
わずかな種類のそれも表紙もとれかけた
ぼろぼろの本がわずかに並べられており
それが私達の「図書室」だった
玄関をまっすぐ奥へ行くと
生徒がみんな茶婆と呼んでいた
用務員さんの部屋があり
その横は屋根だけ供えた屋外の
手を洗うところになっていて
生徒が歯磨きをするように
蛇口が10ほど並んでいた
今で言えばまるでバーベキューの水場みたいだ
しかし何が違うといえば
その蛇口から出るのは全て井戸水だったのだ
そして蛇口の並ぶ一番端には
少し大きめに水がためられるようになっていて
そこには山から湧いている清水が常に流れ込み
お昼のお茶用の大きなアルミの薬缶が浮いていて
いつも冷やされていたのを思い出す
金色に光るアルミの薬缶と
一緒に浮かんでいたホテイアオイの紫の花
懐かしい夏の思い出だ

その水場の足元には
山から湧いた清水がちょろちょろと
ほんの5センチほどの流れを作り
そのまま校舎の裏を山沿いに流れていた
私達は休み時間や放課後になると
校舎の裏のその小さな川ともいえぬ川で
小さな沢蟹を捕まえては遊んだものだ
山の水はいつもほどよく冷たくて
でも夏は地熱でほどほどにぬるかった
流れの上はそのままに
半分は裏の小さな尼寺に
半分は山の頂上へとつながっていて
尼寺へとつながる斜面には
つりがねにんじんの薄紫の花が
いくつもいくつも咲いていた
私たちは時にその花を摘み
時に山へと入って追いかけっこをした

分教室へと登る坂道の真下には
昔ながらの農鍛冶屋があって
暇になると私達はこっそり柵を乗り越えては
火花が散るのを覗いたものだ
夏の間男の子たちは蛇やとかげを捕まえて
自分の机で飼っていた
春になれば祖父たちがその昔
わずかな運動場を囲むように植えた
古木の桜たちが枝もたわむほどに花をつけ
満面に空を埋める様は本当に美しかった
私はよく風に舞い散る桜吹雪の中を
ひとりくるくると踊りまわった
秋には稲穂の揺れる金色のあぜ道に咲いた
真っ赤な真っ赤な彼岸花
はざにかけられ枯れた稲の香りが
私は大好きだった

本当は学校は大嫌いだった
私は昔から自意識過剰で
人と仲良くすることが本当にできなかった
いつも人をいらだたせる嫌な子供だった
こんなに小さな分教場で
私は嫌われ者だった
いつも何処かへ逃げ出したかった
田舎が大嫌いだった

なのに私の記憶の中では
今も鮮やかに蘇る
あの木でできた校舎の古いほこりの匂い
沢水に混じる小さな小石の味
れんげの花の甘い蜜
沢蟹の甲羅の赤い色
裸足であるいた石畳のあの熱さ
山に飲み込まれて消えそうな
小さな小さな分教室
統廃合で廃校になり
本当に夢のように消えてなくなった
今は幻の小さな学校

ミヨリの物語は
筋としては先の想像のつく
ありきたりといえばありきたりの話だけれど
私にはもののけ姫よりよほどに
リアルな物語として実感できた
それは学校の思い出とは別に
ミヨリが水となり世界をめぐるところなど
似たような体験をしたことが
あったからかもしれない
太鼓を叩くあのさまも
なぜだか全てとても分かり易かったのだ
シャーマンの普遍的な
ありがちな姿だから
そう思っても当たり前なんだろう
蟲師のリアルさとはまた違う
個人的に昔を覗いてみたような
そんな不思議な感覚だ

この涙が出るような懐かしさは
歳をとった証拠なのかもしれないなと
ひとりこっそり笑って眠りについた