皆様より 前回の記事へ
誠に温かいコメントを頂き
本当に有難うございました
まさかこのようにコメントをしていただけるとは
思ってもおりませんでした
また私書箱へ
励ましのメールを下さった方もおいでになり
嬉しくて嬉しくて感激しております
これからも皆様からいただいた
この温かい励ましを忘れることなく
また驕ることなく
みちを進んで行こうと思います
心より皆様へ厚く御礼申し上げます
今回のお話は幼い母が体験した
哀れな蛙のお話をしたいと思う
私の母にはふたり弟がいる
母より3つ離れたカッちゃんと
4つ離れたアキちゃんだ
母がまだ小学生の頃
この年子の弟達は
まるで双子のようにそっくりで
その上やたらに元気だった
元気といえば聞こえが良いのだが
要は手のつけられない
やんちゃ坊主だっただけだ
今まで何回も書いてきているので
既にご存知の方には今更なのだが
母の在所は田舎も田舎のド田舎だ
かつては街道沿いとして
そこそこ栄えた場所ではあったのだが
母が幼い頃には
すっかり寂れきっていた
とはいえその頃は
今と比べればまだまだ人家も多く
棲む人も多かったようだ
この訪れるものも少ない里の
山を登って道が無くなるところに
母の在所が有る
それは母が小学5年の夏のことだった
母や弟は近所に遊ぶ相手がいないので
いつも兄弟で遊んでいた
近所に遊ぶような年頃の子供は
ほどほどにいたのだが
みな母の家に奉公に来ているような
そんな家々の子供なので
祖母から遊ぶことを禁じられていたのだった
もちろんこれには理由があって
人を使う側の人間は
雇われているものの前で
遊んでいてはいけないという教えだったのだ
祖母により幼い母は
歌を歌ったり 大きな声をだしたり
ましてや走ったりなど
決してしてはいけないと躾けられた
それは全て たとえ子供とは言えど
そのような軽はずみな態度をしていて
雇われているものが面白いであろうかという
人間心理を考えた教えであった
雇っている側には雇っている側なりの
控える気持ちが必要なのである
なにしろ雇われている中には
母と同じ年頃の子供たちもいたのだから
しかし弟たちは
一切そんな教えを守るわけもなく
やんちゃの限りを尽くしていた
そんなわけで
その日も弟たちと母は
たんぼのあぜ道で兄弟仲良く遊んでいた
母は背中に飼っていた犬を
おんぶ紐でくくりつけ
子守のごっこ遊びを一人でしながら
弟たちが危なくないか
見守っていたのだった
ところが である
弟たちのやんちゃぶりには
母もほとほと手を焼いていて
やはり二人とも
まったく言うことをききはしなかった
蛇を見つけては投げ縄のように振り回しては
母へと投げつけてみたり
土留めの木の枝に投げてみたり
蛙を捕まえては屋根へと投げつけるのだ
母の在所のあるあたりは
蛇穴ともいわれるところで
とにかく蛇や蛙なら
少し探せば山ほどいたのだ
そのうちあぜ道に植えられた
柿木に登ったアキちゃんは
いったいどこに隠し持っていたのか
爆竹を取り出して
火をつけては納屋の屋根へと投げつけ出した
母は怒られるとオロオロしながら
必死でやめるように止めるのだが
もちろん言うことなど
何処吹く風である
そうこうするうちに
なんと今度はその爆竹を
捕まえた蛙の尻から押し込んで
投げつけだしたのである
投げつけられた蛙は
あるものはひしゃげて死に
あるものは破裂して死んだ
あっという間にそこらには
手足のもげて中身をばら撒いた
蛙の死骸だらけになっていく
夕暮れて
空は朱に薄く墨を刷いたような色をして
囲む山は既に黒々と
その中で無邪気なアキちゃんは
蛙たちをもて遊び
なぶり殺し捨てていく
あまりといえばあまりのことに
母は怒られるのが怖くなり
先にひとり家に帰ってしまったが
結局弟達も晩御飯に間に合うように
しばらく二人で遊んでから
何事もない風で戻ってきた
そしてそのことは
当然家族の誰にも話さなかった
そして夜は更けて
空に冴え冴えとした月が真上に登る頃
アキちゃんはトイレに行きたくなり目を覚ました
この家のトイレは
当時の習慣に合わせて屋外に作られていたので
草履を履かねば行くことが出来なかった
現代の家屋と違いこの家は
玄関からまっすぐ土間が広がって
裏の勝手口まで続いており
またその土間は右に折れると
そのまま使用人たちの屋根続きの離れと
外の庭へと続いていた
その土間の左側に沿って
畳みの部屋が並んでいる
暗闇のなかアキちゃんは
土間に並べられた自分の靴に足を乗せようとした
その瞬間
ぐにゅり
足の裏から
ヒヤッとした心地の悪い冷たさと
何かぬるっとしたものを踏み潰したような
妙な感触がした
ひっとしてアキちゃんは
とっさに足を引く
なんだ?
暗闇の中目を凝らしてみるのだが
これといったものは見当たらない
土間は黒い土の色をして
闇の中に沈んでいる
あぁ おしっこが出ちゃうよ
ぶるっと体を小さく振るわせると
アキちゃんはもう一度草履を履くため
急いで足を下ろした
ぐちゅっ
今度は明らかに
何かを踏み潰した感触がした
ぬるっとした冷たい嫌な感覚が
裸足の裏からダイレクトに伝わって
思わず上がりはなへと飛び上がり
ひやあぁあ!と大声を上げた
な・・なんだ 今の
アキちゃんはわけが分からず
少し気味が悪い思いをしながら
それでもそれがなんなのか
確かめようと土間を覗き込み
じっと目を凝らす
相変わらずしん・・とした闇の中
どこからか聞こえてくるのは
いつも聞こえる蛙の鳴き声
ころころ ぐわ ころころ
いつもと変わりない夜のはずだった
しかし いや 何かが違う
なにが違うのだろう
アキちゃんはさらに目を凝らした
するとそこへ声を聞きつけた母が
いったい何事かと土間へと続く木の扉を
するすると押し開き現れた
「どうしたん アキちゃん」
「姉ちゃん・・なんか 草履の上に落ちとる」
母は弟が何を言いたいのか良く分からなかった
するといきなりぱっと後ろが明るくなり
祖母(母の母)がどうしたのかと声をかけた
「おかあちゃん あのな アキちゃんが」
母が騒がしい言い訳をしようとした瞬間
「ね ねえちゃっ!!」
アキちゃんの声がわなわなと震えていた
「もううるさいなぁ なんや・・・」
文句を言おうとした母も
思わず声を飲み込んだ
様子を伺っていた祖母が
いぶかしく思い土間を覗き込んだその時
ちらと何かが光った
何やあれは
その小さく光るものは
ちらちらとして
しかも土間のあちこちで
まるで瞬いているように見える
祖母はいったい何なのか
良く見えるようにと
扉を勢い良く開け放った
さっと暗い土間を
ろうそくの白い光が照らした時
祖母の口からもひぃと悲鳴が漏れた
そこには蛙がいたのだ
それは尋常な数ではなかったそうだ
その時のことを母は今でもこう話す
「もうなぁ 土間一面足の踏み場も無いほどに
ぎっちり蛙が座っていてな
それがみんなお母さんらのほうをにらんでるんよ
どこを見ても蛙蛙蛙や
勿論草履の上から何から全部やで
お母さんもアキちゃんもおばあちゃんも
慌てて反対の土間にいったんやけど
そっちももうぎちぎちに蛙が座り込んで
みんなでこっちをにらんでたんよ
大きい蛙 小さい蛙
アマガエルに殿様蛙 蝦蟇蛙
いろんな蛙が一声もなかんとこっちをみてるんや
そりゃ気味がわるいもんやったわ
もうな 足の下ろすところひとっつもあらへんの
そのうち騒ぎでカッちゃんも起きてきてなぁ」
ろうそくの明かりは土間一面ぬらぬらと
蛙の粘液に反射して
世にも気味の悪い光景を映し出していたそうだ
さすがにそれをみた弟二人は半べそをかき
本当に申し訳ないことをいてしまったと
蛙に頭をさげたのだそうだ
そうして朝の日が昇る頃
無言の蛙たちは
一匹 また一匹と姿を消していったという
「やっぱりな
どんなもんでも弄んでおもちゃにしてはあかんのや
なんにでも心はあるんやと お母さんは思ったわ」
それから幾年月が過ぎていき
今ではアキちゃんは
某地方銀行のおえら様となり
時折新聞で顔を見るくらいで
叔父といえども滅多に顔をあわせることもない
カッちゃんの方はといえば
母の家を継ぎ
おとなしい優しい田舎の老爺として
奥さんたちと静かに静かに暮らしている
そして母は時折私を呼んで
昔の思い出話をするようになり
私は私で
昔母から聞いたさまざまな話を持ち出しては
のんびりと二人で笑い合えるようになっていた
「一寸の虫にも五分の魂」
昔の人はよく言ったものであるなと思う
これもそんな
母方の思い出話のひとつだ
誠に温かいコメントを頂き
本当に有難うございました
まさかこのようにコメントをしていただけるとは
思ってもおりませんでした
また私書箱へ
励ましのメールを下さった方もおいでになり
嬉しくて嬉しくて感激しております
これからも皆様からいただいた
この温かい励ましを忘れることなく
また驕ることなく
みちを進んで行こうと思います
心より皆様へ厚く御礼申し上げます
今回のお話は幼い母が体験した
哀れな蛙のお話をしたいと思う
私の母にはふたり弟がいる
母より3つ離れたカッちゃんと
4つ離れたアキちゃんだ
母がまだ小学生の頃
この年子の弟達は
まるで双子のようにそっくりで
その上やたらに元気だった
元気といえば聞こえが良いのだが
要は手のつけられない
やんちゃ坊主だっただけだ
今まで何回も書いてきているので
既にご存知の方には今更なのだが
母の在所は田舎も田舎のド田舎だ
かつては街道沿いとして
そこそこ栄えた場所ではあったのだが
母が幼い頃には
すっかり寂れきっていた
とはいえその頃は
今と比べればまだまだ人家も多く
棲む人も多かったようだ
この訪れるものも少ない里の
山を登って道が無くなるところに
母の在所が有る
それは母が小学5年の夏のことだった
母や弟は近所に遊ぶ相手がいないので
いつも兄弟で遊んでいた
近所に遊ぶような年頃の子供は
ほどほどにいたのだが
みな母の家に奉公に来ているような
そんな家々の子供なので
祖母から遊ぶことを禁じられていたのだった
もちろんこれには理由があって
人を使う側の人間は
雇われているものの前で
遊んでいてはいけないという教えだったのだ
祖母により幼い母は
歌を歌ったり 大きな声をだしたり
ましてや走ったりなど
決してしてはいけないと躾けられた
それは全て たとえ子供とは言えど
そのような軽はずみな態度をしていて
雇われているものが面白いであろうかという
人間心理を考えた教えであった
雇っている側には雇っている側なりの
控える気持ちが必要なのである
なにしろ雇われている中には
母と同じ年頃の子供たちもいたのだから
しかし弟たちは
一切そんな教えを守るわけもなく
やんちゃの限りを尽くしていた
そんなわけで
その日も弟たちと母は
たんぼのあぜ道で兄弟仲良く遊んでいた
母は背中に飼っていた犬を
おんぶ紐でくくりつけ
子守のごっこ遊びを一人でしながら
弟たちが危なくないか
見守っていたのだった
ところが である
弟たちのやんちゃぶりには
母もほとほと手を焼いていて
やはり二人とも
まったく言うことをききはしなかった
蛇を見つけては投げ縄のように振り回しては
母へと投げつけてみたり
土留めの木の枝に投げてみたり
蛙を捕まえては屋根へと投げつけるのだ
母の在所のあるあたりは
蛇穴ともいわれるところで
とにかく蛇や蛙なら
少し探せば山ほどいたのだ
そのうちあぜ道に植えられた
柿木に登ったアキちゃんは
いったいどこに隠し持っていたのか
爆竹を取り出して
火をつけては納屋の屋根へと投げつけ出した
母は怒られるとオロオロしながら
必死でやめるように止めるのだが
もちろん言うことなど
何処吹く風である
そうこうするうちに
なんと今度はその爆竹を
捕まえた蛙の尻から押し込んで
投げつけだしたのである
投げつけられた蛙は
あるものはひしゃげて死に
あるものは破裂して死んだ
あっという間にそこらには
手足のもげて中身をばら撒いた
蛙の死骸だらけになっていく
夕暮れて
空は朱に薄く墨を刷いたような色をして
囲む山は既に黒々と
その中で無邪気なアキちゃんは
蛙たちをもて遊び
なぶり殺し捨てていく
あまりといえばあまりのことに
母は怒られるのが怖くなり
先にひとり家に帰ってしまったが
結局弟達も晩御飯に間に合うように
しばらく二人で遊んでから
何事もない風で戻ってきた
そしてそのことは
当然家族の誰にも話さなかった
そして夜は更けて
空に冴え冴えとした月が真上に登る頃
アキちゃんはトイレに行きたくなり目を覚ました
この家のトイレは
当時の習慣に合わせて屋外に作られていたので
草履を履かねば行くことが出来なかった
現代の家屋と違いこの家は
玄関からまっすぐ土間が広がって
裏の勝手口まで続いており
またその土間は右に折れると
そのまま使用人たちの屋根続きの離れと
外の庭へと続いていた
その土間の左側に沿って
畳みの部屋が並んでいる
暗闇のなかアキちゃんは
土間に並べられた自分の靴に足を乗せようとした
その瞬間
ぐにゅり
足の裏から
ヒヤッとした心地の悪い冷たさと
何かぬるっとしたものを踏み潰したような
妙な感触がした
ひっとしてアキちゃんは
とっさに足を引く
なんだ?
暗闇の中目を凝らしてみるのだが
これといったものは見当たらない
土間は黒い土の色をして
闇の中に沈んでいる
あぁ おしっこが出ちゃうよ
ぶるっと体を小さく振るわせると
アキちゃんはもう一度草履を履くため
急いで足を下ろした
ぐちゅっ
今度は明らかに
何かを踏み潰した感触がした
ぬるっとした冷たい嫌な感覚が
裸足の裏からダイレクトに伝わって
思わず上がりはなへと飛び上がり
ひやあぁあ!と大声を上げた
な・・なんだ 今の
アキちゃんはわけが分からず
少し気味が悪い思いをしながら
それでもそれがなんなのか
確かめようと土間を覗き込み
じっと目を凝らす
相変わらずしん・・とした闇の中
どこからか聞こえてくるのは
いつも聞こえる蛙の鳴き声
ころころ ぐわ ころころ
いつもと変わりない夜のはずだった
しかし いや 何かが違う
なにが違うのだろう
アキちゃんはさらに目を凝らした
するとそこへ声を聞きつけた母が
いったい何事かと土間へと続く木の扉を
するすると押し開き現れた
「どうしたん アキちゃん」
「姉ちゃん・・なんか 草履の上に落ちとる」
母は弟が何を言いたいのか良く分からなかった
するといきなりぱっと後ろが明るくなり
祖母(母の母)がどうしたのかと声をかけた
「おかあちゃん あのな アキちゃんが」
母が騒がしい言い訳をしようとした瞬間
「ね ねえちゃっ!!」
アキちゃんの声がわなわなと震えていた
「もううるさいなぁ なんや・・・」
文句を言おうとした母も
思わず声を飲み込んだ
様子を伺っていた祖母が
いぶかしく思い土間を覗き込んだその時
ちらと何かが光った
何やあれは
その小さく光るものは
ちらちらとして
しかも土間のあちこちで
まるで瞬いているように見える
祖母はいったい何なのか
良く見えるようにと
扉を勢い良く開け放った
さっと暗い土間を
ろうそくの白い光が照らした時
祖母の口からもひぃと悲鳴が漏れた
そこには蛙がいたのだ
それは尋常な数ではなかったそうだ
その時のことを母は今でもこう話す
「もうなぁ 土間一面足の踏み場も無いほどに
ぎっちり蛙が座っていてな
それがみんなお母さんらのほうをにらんでるんよ
どこを見ても蛙蛙蛙や
勿論草履の上から何から全部やで
お母さんもアキちゃんもおばあちゃんも
慌てて反対の土間にいったんやけど
そっちももうぎちぎちに蛙が座り込んで
みんなでこっちをにらんでたんよ
大きい蛙 小さい蛙
アマガエルに殿様蛙 蝦蟇蛙
いろんな蛙が一声もなかんとこっちをみてるんや
そりゃ気味がわるいもんやったわ
もうな 足の下ろすところひとっつもあらへんの
そのうち騒ぎでカッちゃんも起きてきてなぁ」
ろうそくの明かりは土間一面ぬらぬらと
蛙の粘液に反射して
世にも気味の悪い光景を映し出していたそうだ
さすがにそれをみた弟二人は半べそをかき
本当に申し訳ないことをいてしまったと
蛙に頭をさげたのだそうだ
そうして朝の日が昇る頃
無言の蛙たちは
一匹 また一匹と姿を消していったという
「やっぱりな
どんなもんでも弄んでおもちゃにしてはあかんのや
なんにでも心はあるんやと お母さんは思ったわ」
それから幾年月が過ぎていき
今ではアキちゃんは
某地方銀行のおえら様となり
時折新聞で顔を見るくらいで
叔父といえども滅多に顔をあわせることもない
カッちゃんの方はといえば
母の家を継ぎ
おとなしい優しい田舎の老爺として
奥さんたちと静かに静かに暮らしている
そして母は時折私を呼んで
昔の思い出話をするようになり
私は私で
昔母から聞いたさまざまな話を持ち出しては
のんびりと二人で笑い合えるようになっていた
「一寸の虫にも五分の魂」
昔の人はよく言ったものであるなと思う
これもそんな
母方の思い出話のひとつだ