重い心を抱いたまま
私は作り笑顔を張り付かせ
まるで何もかも悩みが解決したかのように
明るくはしゃいで見せていた
そうせねば この廟に集う信者の皆さんに
なんだか申し訳ないような
そんな義務感でいっぱいだったのだ
ここは信仰の場だ
地元の人々が日々頭を下げ
手を合わせ捧げ物をし平穏を願う
それはこの廟が作られてから
営々と年月とともに営まれてきたものだ
本当は私のような観光客が
こんな風に土足で上がりこんでいいところではないのだ
風にあたろうと廟の外へ出ると
邸氏が煙草を吸っていた
ふと思いついて私は黄さんに
「邸さんはいつからタンキーになったのか聞いてもらえませんか?」
と お願いしてみた
「36の時だそうです」
36歳・・・
「36歳のある時 私は突然おかしくなりました
食欲不振 頭痛 吐き気 めまい 耳鳴り 発熱 が続き
そのうち夜も眠れなくなり 仕事にもいけなくなりました
いつもなんだか気分が悪く いわゆるうつ病のようでした
立つこともできず 寝たきりになり
妄想や幻覚 幻聴がはじまりました
何の理由もなくある日そうなってしまったのです
それでも病院では原因がわからず
家族は私がキチガイになったと精神科へ連れて行きました
薬も注射もなにひとつ効きませんでした
とても つらい日々でした
やがて 知り合いがこれはタンキーに見せたほうがいいんじゃないかと
タンキーのいる とある廟へ連れて行ってくれました
そこでこれは巫病だとわかったのです
それで私はタンキーになることを受け入れたのです
それから30年がたちました」
聞いているうちに
思わず私は嗚咽をもらした
こらえようとした喉がぶるぶると震える
いやだ いい年をして恥ずかしい
けれどこらえきれなかった涙が
ぽろんと一粒こぼれた
一度こぼれた涙はついに溢れ始め
もう止めることができなかった
私は邸氏の汚れた胸にしがみつき
えんえんと泣いた
とまどい身じろぎをした邸師の
むっとした体臭が鼻をついた
それでも私は胸にうずめた顔をあげられず
これ以上伸びようのないランニングを
破れんばかりに握り締め
私は大声で泣きじゃくった
もう化粧がぐちゃぐちゃになろうとも
どれほど恥ずかしかろうとも
どうでも良くなっていた
私はいつも孤独だった
人と楽しく話していても
いろんな人に囲まれていても
私はいつも孤独を感じていた
例えばあなた以外の日本人が全員滅亡してしまい
地球にあなたが独りだけの日本人になったとしよう
ヒトとして人類としてはあなたは独りではない
けれど誰もあなたとは「同じ」ではないのだ
私の感じていた孤独はそういう種類の孤独だった
それが何故なのかわからなかった
実際には私は独りではないのだ
家族もいるし子供も持っている
つきあって4年の彼氏もいる
時には電話や食事に行くような男女の友人もいる
私は自分のもつこの「孤独」はもしかしたら
単なるよくある青少年特有の分離不安なのかもしれないと思うと
そんな自分にうんざりしていた
つまり私は単なる精神が未発達なだけなのだろうから
かといってこの気持ちを
誰かと分かち合いたいと思うことはなかったし
その孤独を神仏に訴えることは無かった
そしてこの孤独が何故なのか神仏に問うともなかった
私は神仏に
自分のための何かを訴えたり求めることはなかったのだ
けれどせめて
せめて同じ体験をした人にあいたかった
そしてその人の声を聞きたかった
子供じみた思いかもしれないけれど
そう 私は
ずっとずっと
大声をあげて泣きたかったのだ
ただ泣きたかったのだ
いきなり号泣し
しがみついてきた私にとまどいながら
それでも黄さんから
私が精神異常として扱われきたことを聞き
邸氏はまるで幼い子供にするかのように
私の頭を撫でてくれたのだった
「あなたは私と同じです 同じですよ」
雲の隙間には星が見える
異国の空の下言葉も通じぬ老爺が
私をなだめるように背中をぽんぽんと叩きながら
頬をさすり微笑みかける
ふと目の端にうつるセブンイレブンの明かり
その蛍光灯の白い光はなぜか私に日本を思わせた
そうか そうなんだな
私は何かが私の中で終わったことを知った
それが何かはわからないけれど
ひとつの時間が終わり
またひとつ私の新しい時間が始まったんだなと思う
そう それは
もしかしたら
覚悟 とか 決意 というような そんなもの
いろんな生き方があって
いろんな生活があって
そう これが 私の生きる道
生きていく道なんだ
他の誰でもない私が生きていく道
生ぬるい風吹く台北で
こうして私はまたひとつ
小さな小さな一歩を記したのだった
++++++++++++++++<タンキー編:終了>
ようやく終わりました~~(;~〓~) アセアセ
早く終了するために
ちょっと削った変わったエピソードなんかも実はありました
また チャンスがあれば 書いてみようと思います
私は作り笑顔を張り付かせ
まるで何もかも悩みが解決したかのように
明るくはしゃいで見せていた
そうせねば この廟に集う信者の皆さんに
なんだか申し訳ないような
そんな義務感でいっぱいだったのだ
ここは信仰の場だ
地元の人々が日々頭を下げ
手を合わせ捧げ物をし平穏を願う
それはこの廟が作られてから
営々と年月とともに営まれてきたものだ
本当は私のような観光客が
こんな風に土足で上がりこんでいいところではないのだ
風にあたろうと廟の外へ出ると
邸氏が煙草を吸っていた
ふと思いついて私は黄さんに
「邸さんはいつからタンキーになったのか聞いてもらえませんか?」
と お願いしてみた
「36の時だそうです」
36歳・・・
「36歳のある時 私は突然おかしくなりました
食欲不振 頭痛 吐き気 めまい 耳鳴り 発熱 が続き
そのうち夜も眠れなくなり 仕事にもいけなくなりました
いつもなんだか気分が悪く いわゆるうつ病のようでした
立つこともできず 寝たきりになり
妄想や幻覚 幻聴がはじまりました
何の理由もなくある日そうなってしまったのです
それでも病院では原因がわからず
家族は私がキチガイになったと精神科へ連れて行きました
薬も注射もなにひとつ効きませんでした
とても つらい日々でした
やがて 知り合いがこれはタンキーに見せたほうがいいんじゃないかと
タンキーのいる とある廟へ連れて行ってくれました
そこでこれは巫病だとわかったのです
それで私はタンキーになることを受け入れたのです
それから30年がたちました」
聞いているうちに
思わず私は嗚咽をもらした
こらえようとした喉がぶるぶると震える
いやだ いい年をして恥ずかしい
けれどこらえきれなかった涙が
ぽろんと一粒こぼれた
一度こぼれた涙はついに溢れ始め
もう止めることができなかった
私は邸氏の汚れた胸にしがみつき
えんえんと泣いた
とまどい身じろぎをした邸師の
むっとした体臭が鼻をついた
それでも私は胸にうずめた顔をあげられず
これ以上伸びようのないランニングを
破れんばかりに握り締め
私は大声で泣きじゃくった
もう化粧がぐちゃぐちゃになろうとも
どれほど恥ずかしかろうとも
どうでも良くなっていた
私はいつも孤独だった
人と楽しく話していても
いろんな人に囲まれていても
私はいつも孤独を感じていた
例えばあなた以外の日本人が全員滅亡してしまい
地球にあなたが独りだけの日本人になったとしよう
ヒトとして人類としてはあなたは独りではない
けれど誰もあなたとは「同じ」ではないのだ
私の感じていた孤独はそういう種類の孤独だった
それが何故なのかわからなかった
実際には私は独りではないのだ
家族もいるし子供も持っている
つきあって4年の彼氏もいる
時には電話や食事に行くような男女の友人もいる
私は自分のもつこの「孤独」はもしかしたら
単なるよくある青少年特有の分離不安なのかもしれないと思うと
そんな自分にうんざりしていた
つまり私は単なる精神が未発達なだけなのだろうから
かといってこの気持ちを
誰かと分かち合いたいと思うことはなかったし
その孤独を神仏に訴えることは無かった
そしてこの孤独が何故なのか神仏に問うともなかった
私は神仏に
自分のための何かを訴えたり求めることはなかったのだ
けれどせめて
せめて同じ体験をした人にあいたかった
そしてその人の声を聞きたかった
子供じみた思いかもしれないけれど
そう 私は
ずっとずっと
大声をあげて泣きたかったのだ
ただ泣きたかったのだ
いきなり号泣し
しがみついてきた私にとまどいながら
それでも黄さんから
私が精神異常として扱われきたことを聞き
邸氏はまるで幼い子供にするかのように
私の頭を撫でてくれたのだった
「あなたは私と同じです 同じですよ」
雲の隙間には星が見える
異国の空の下言葉も通じぬ老爺が
私をなだめるように背中をぽんぽんと叩きながら
頬をさすり微笑みかける
ふと目の端にうつるセブンイレブンの明かり
その蛍光灯の白い光はなぜか私に日本を思わせた
そうか そうなんだな
私は何かが私の中で終わったことを知った
それが何かはわからないけれど
ひとつの時間が終わり
またひとつ私の新しい時間が始まったんだなと思う
そう それは
もしかしたら
覚悟 とか 決意 というような そんなもの
いろんな生き方があって
いろんな生活があって
そう これが 私の生きる道
生きていく道なんだ
他の誰でもない私が生きていく道
生ぬるい風吹く台北で
こうして私はまたひとつ
小さな小さな一歩を記したのだった
++++++++++++++++<タンキー編:終了>
ようやく終わりました~~(;~〓~) アセアセ
早く終了するために
ちょっと削った変わったエピソードなんかも実はありました
また チャンスがあれば 書いてみようと思います