「あなたには女の生霊がついています」
近代化の波に洗われながらもどこか猥雑さを残す都市 台北
その小さな夜市のテーブルで
ついに私ハヌルの公開リーディングは始まった
「彼を助けてくださイ!」
悲痛な宋老師の声が深夜の路上に響いたそのとき
私の耳には
天人の打ち鳴らすシンバルの音が聞こえていたのだった…
公開リーディングin台北 第4話 スタート
シリーズ「公開リーディングin台北」 こちらから一気にどうぞ
→第壱話 →第弐話 →第参話
※そろそろ胡散臭さもMAXですが 残念なことに この話はすべて実話です 滝汗
「ハヌルさん お願いでス!!」
叫び声にも似た宋老師の声も
口々に騒ぐ異国の男たちの声も
ゆっくりと私からは遠ざかりつつあった
あぁ 酔っているな
頭のてっぺんのあたりがざわざわとざわめきはじめ
その髪がいっぽんずつ根元から立ち上がリはじめる
うわんうわんうわんうわん
肉の耳には聞こえぬ「あの音」
そう天上の楽師の奏でるあの独特の「シンバルの音」が
耳のうちから外から鳴り響き
やがてそれは私の全身に響き渡って巨大な波を作り出す
その波は熱を帯び
そしてその熱を音の波が体の隅々へと運んでいく
すでに「私」の半分は私の肉の中にはおらず
か細いような金銀の糸でゆらりと結ばれているだけとなり
後頭部のほうから「私」を眺めている「観察者」へと変じはじめていた
私の肉体を動かすのは私であってそしてそれは
いまや「私」ではない「私」なのだ
薄く私の顔が にぃ と ほお笑む
どこを見ているのか怪しいような半眼のその目
緩く引き結んだ口元に浮かぶ微笑
この顔つきを見る人がみれば
どこかでみたことがあると感じたかもしれないなぁ
既に半ば第三者と化した「私」は
その表情を「観」てそう思う
今回はどうやら私は完全な「乗り物」である必要はないようだった
酒が入っていることにより
ほどよく自我が開放されていたことが
逆に私が関与することを許されたのだろう
まるで酔拳 だな
傀儡師に操られるように動く「私」の姿を観て思う
よろめきながら立ち上がる私の頬は上気して赤く
おそらくどこから見ても
ただの外国人の酔っ払い女だ
「立ちなさい」
遠くに聞こえる「私」の声が男を椅子から立つように促した
通訳する老師に言われて慌てた林さんが
立ち上がろうとして蹴倒した椅子が大きな音を立てて転がった
その物音が不吉にでも聞こえたのだろうか
テーブルを囲む何人もの異国の男たちも
どこか狼狽したような表情を浮かべ
さりげなく回りを伺う様子を見せる
吹き寄せる風に何か
常ならざるものでも混じっているかのように
自らの腕をさする者もいた
「私の前に立ってください」
林さんの前に立ち
私はふかく息を吐いた
全身の力がするすると抜けていく
やがてすうっと半眼の眼の中で
普段見えているものとは違う
もうひとつの映像が結ばれ始める
・・・・薄い
私の眼に映った林さんは
まるで紗の一枚布をかけられたように
その色が不鮮明でありところどころにノイズが走っており
なおかつ全身は憑かれたもの独特の
細い生気と冷気に包まれているように見えた
気が遮断されているな
この様子ならおそらく既に
理由もないのに起こる不眠や鬱など神経症状と
全身に妙な倦怠感を感じていることだろう
何しろ全身を流れているはずの気が薄く
天地との気の流れもふさがっているように見える
後ろを向かせてみれば
背中 それも肩甲骨から上の部分が緊張しており
それは不眠や鬱から引き起こされる
神経疲れによるものだろうと推測された
また他人の肉体を触ることにより
邪気を吸い込んでいることも
症状の要因のひとつなのだろう
私はそこまでを観てとると
宋老師によりそのことをまとめて通訳してもらった
「それではもう一度私に正面を向いて」
半眼の眼が
ほぼ開いているか分からぬほどに
更に閉じられていく
ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
私の唇からは狭い岩の間をとおり抜ける風の音にも似た
甲高いような声が漏れた
「dksjmxnchf b,vjgnjx\:;.lsm」
そしていつものごとく
意味のわからぬ不思議な異言をつぶやき
胸の前で合掌をする私の右の背後へと
はるか虚空より
激しく熱を発する巨大なまばゆい金色の光がやってくる
あぁ 私の背中が燃えている・・・
ゆらり ゆうらり
私の手が林さんの前でひらひらと
舞い始めた
------------------------------------------(続く)
近代化の波に洗われながらもどこか猥雑さを残す都市 台北
その小さな夜市のテーブルで
ついに私ハヌルの公開リーディングは始まった
「彼を助けてくださイ!」
悲痛な宋老師の声が深夜の路上に響いたそのとき
私の耳には
天人の打ち鳴らすシンバルの音が聞こえていたのだった…
公開リーディングin台北 第4話 スタート
シリーズ「公開リーディングin台北」 こちらから一気にどうぞ
→第壱話 →第弐話 →第参話
※そろそろ胡散臭さもMAXですが 残念なことに この話はすべて実話です 滝汗
「ハヌルさん お願いでス!!」
叫び声にも似た宋老師の声も
口々に騒ぐ異国の男たちの声も
ゆっくりと私からは遠ざかりつつあった
あぁ 酔っているな
頭のてっぺんのあたりがざわざわとざわめきはじめ
その髪がいっぽんずつ根元から立ち上がリはじめる
うわんうわんうわんうわん
肉の耳には聞こえぬ「あの音」
そう天上の楽師の奏でるあの独特の「シンバルの音」が
耳のうちから外から鳴り響き
やがてそれは私の全身に響き渡って巨大な波を作り出す
その波は熱を帯び
そしてその熱を音の波が体の隅々へと運んでいく
すでに「私」の半分は私の肉の中にはおらず
か細いような金銀の糸でゆらりと結ばれているだけとなり
後頭部のほうから「私」を眺めている「観察者」へと変じはじめていた
私の肉体を動かすのは私であってそしてそれは
いまや「私」ではない「私」なのだ
薄く私の顔が にぃ と ほお笑む
どこを見ているのか怪しいような半眼のその目
緩く引き結んだ口元に浮かぶ微笑
この顔つきを見る人がみれば
どこかでみたことがあると感じたかもしれないなぁ
既に半ば第三者と化した「私」は
その表情を「観」てそう思う
今回はどうやら私は完全な「乗り物」である必要はないようだった
酒が入っていることにより
ほどよく自我が開放されていたことが
逆に私が関与することを許されたのだろう
まるで酔拳 だな
傀儡師に操られるように動く「私」の姿を観て思う
よろめきながら立ち上がる私の頬は上気して赤く
おそらくどこから見ても
ただの外国人の酔っ払い女だ
「立ちなさい」
遠くに聞こえる「私」の声が男を椅子から立つように促した
通訳する老師に言われて慌てた林さんが
立ち上がろうとして蹴倒した椅子が大きな音を立てて転がった
その物音が不吉にでも聞こえたのだろうか
テーブルを囲む何人もの異国の男たちも
どこか狼狽したような表情を浮かべ
さりげなく回りを伺う様子を見せる
吹き寄せる風に何か
常ならざるものでも混じっているかのように
自らの腕をさする者もいた
「私の前に立ってください」
林さんの前に立ち
私はふかく息を吐いた
全身の力がするすると抜けていく
やがてすうっと半眼の眼の中で
普段見えているものとは違う
もうひとつの映像が結ばれ始める
・・・・薄い
私の眼に映った林さんは
まるで紗の一枚布をかけられたように
その色が不鮮明でありところどころにノイズが走っており
なおかつ全身は憑かれたもの独特の
細い生気と冷気に包まれているように見えた
気が遮断されているな
この様子ならおそらく既に
理由もないのに起こる不眠や鬱など神経症状と
全身に妙な倦怠感を感じていることだろう
何しろ全身を流れているはずの気が薄く
天地との気の流れもふさがっているように見える
後ろを向かせてみれば
背中 それも肩甲骨から上の部分が緊張しており
それは不眠や鬱から引き起こされる
神経疲れによるものだろうと推測された
また他人の肉体を触ることにより
邪気を吸い込んでいることも
症状の要因のひとつなのだろう
私はそこまでを観てとると
宋老師によりそのことをまとめて通訳してもらった
「それではもう一度私に正面を向いて」
半眼の眼が
ほぼ開いているか分からぬほどに
更に閉じられていく
ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
私の唇からは狭い岩の間をとおり抜ける風の音にも似た
甲高いような声が漏れた
「dksjmxnchf b,vjgnjx\:;.lsm」
そしていつものごとく
意味のわからぬ不思議な異言をつぶやき
胸の前で合掌をする私の右の背後へと
はるか虚空より
激しく熱を発する巨大なまばゆい金色の光がやってくる
あぁ 私の背中が燃えている・・・
ゆらり ゆうらり
私の手が林さんの前でひらひらと
舞い始めた
------------------------------------------(続く)