私は何度も何度も振り返って
誰かがいたずらをしているのではないかと確認をした
けれど 浴室の扉はぴっちりと閉まっており
曇りガラスの向こうの脱衣所に人影はなかった
これは人間の声ではない
そのとき私はそう思いながら
それでも勘違いかもしれないという思いがあり
どうしても振り返らずにはいられなかったのだ
その声は男か女か区別のつかぬような声だったが
少し高いまるで子供のような声に聞こえた
けれど 子供にしてはどこかしら
妙に落ち着きのある声なのだった
何度も聞き返す私にいらつくことなく
同じようなことを繰り返すその声
なにより普通でないことは
その声は私の耳の真後ろ それも髪の内側から聞こえていた
結局その日より3日間
私は毎晩入浴時に頭を洗うたび
この声に話しかけられたのである
私はとても不思議だった
確かに私にはその頃彼氏がおり
普通に考えれば
「そういう可能性」即ち 妊娠が勿論あってもおかしくはなかった
しかし 当時の私にはまったくそんなことは無縁だったのだ
何故なら私の体は病院の検査によって
妊娠はまず出来ないと宣告されていたからである
そんな私が妊娠するなどありえないと思っていたし
またまだ独身だったので まったく望んでもいなかった
私は一生独身でいることを望んでいたし
看護婦を夢見てそれを一生の仕事としようと決意したところだったのだ
そんな私は その声のいうところの『赤ちゃん』が
自分の赤ん坊のことを指しているとは
まったく思いつきもしなかったのである
ところが それから10日ほどたった頃から
私の体調はえらく悪くなっていた
激しい嘔吐感 眩暈 頭痛 冷や汗
体の節々が痛み常に発熱しているように寒気がしていた
しかも吐いたものには黒い血が混じっているようだった
そして何より私を怖がらせたのは
激しい腹痛とともに
炭のように真っ黒な便が出始めたことだ
身も世もないほどに体中が苦しく
裏返しになるかと思おう程吐きつづけ
あまりの苦しさに横になることも出来ず
布団を掻き毟りつづける夜が続いていく
私は怖くなった
どう考えても尋常な苦しみではなかったからだ
そんなとき ふとあの声を思い出した
まさか そんな あるわけがない
そう打ち消したものの
やがて疑念が広がり始めたある日
嘔吐と寒気以外の症状が少し治まったので
私は遠く離れた病院へ検査に出かけた
結果私は 妊娠していたのである
そう 医者の計算による週数を見てみると
ちょうどあの声が聞こえたあたりで
私は授精していたことになるようだった
やはり あの声は
私の受胎を知らせる声
いわば 魂による受胎告知の声だったのだ
今の長男を見ていて
あの声の面影はまるでないけれど
結局私は この妊娠をきっかけに
このときの彼氏と結婚をし
そして波乱の日々を送ることとなるのだが
それはまた別の話・・・
やがて こうしてミエナイ世界と
正面から向き合って生きることとなる私の
ターニングポイントとなった霊聴のはなしでした
誰かがいたずらをしているのではないかと確認をした
けれど 浴室の扉はぴっちりと閉まっており
曇りガラスの向こうの脱衣所に人影はなかった
これは人間の声ではない
そのとき私はそう思いながら
それでも勘違いかもしれないという思いがあり
どうしても振り返らずにはいられなかったのだ
その声は男か女か区別のつかぬような声だったが
少し高いまるで子供のような声に聞こえた
けれど 子供にしてはどこかしら
妙に落ち着きのある声なのだった
何度も聞き返す私にいらつくことなく
同じようなことを繰り返すその声
なにより普通でないことは
その声は私の耳の真後ろ それも髪の内側から聞こえていた
結局その日より3日間
私は毎晩入浴時に頭を洗うたび
この声に話しかけられたのである
私はとても不思議だった
確かに私にはその頃彼氏がおり
普通に考えれば
「そういう可能性」即ち 妊娠が勿論あってもおかしくはなかった
しかし 当時の私にはまったくそんなことは無縁だったのだ
何故なら私の体は病院の検査によって
妊娠はまず出来ないと宣告されていたからである
そんな私が妊娠するなどありえないと思っていたし
またまだ独身だったので まったく望んでもいなかった
私は一生独身でいることを望んでいたし
看護婦を夢見てそれを一生の仕事としようと決意したところだったのだ
そんな私は その声のいうところの『赤ちゃん』が
自分の赤ん坊のことを指しているとは
まったく思いつきもしなかったのである
ところが それから10日ほどたった頃から
私の体調はえらく悪くなっていた
激しい嘔吐感 眩暈 頭痛 冷や汗
体の節々が痛み常に発熱しているように寒気がしていた
しかも吐いたものには黒い血が混じっているようだった
そして何より私を怖がらせたのは
激しい腹痛とともに
炭のように真っ黒な便が出始めたことだ
身も世もないほどに体中が苦しく
裏返しになるかと思おう程吐きつづけ
あまりの苦しさに横になることも出来ず
布団を掻き毟りつづける夜が続いていく
私は怖くなった
どう考えても尋常な苦しみではなかったからだ
そんなとき ふとあの声を思い出した
まさか そんな あるわけがない
そう打ち消したものの
やがて疑念が広がり始めたある日
嘔吐と寒気以外の症状が少し治まったので
私は遠く離れた病院へ検査に出かけた
結果私は 妊娠していたのである
そう 医者の計算による週数を見てみると
ちょうどあの声が聞こえたあたりで
私は授精していたことになるようだった
やはり あの声は
私の受胎を知らせる声
いわば 魂による受胎告知の声だったのだ
今の長男を見ていて
あの声の面影はまるでないけれど
結局私は この妊娠をきっかけに
このときの彼氏と結婚をし
そして波乱の日々を送ることとなるのだが
それはまた別の話・・・
やがて こうしてミエナイ世界と
正面から向き合って生きることとなる私の
ターニングポイントとなった霊聴のはなしでした