連れとテレビを見ていた

テレビはオリンピックの後 経済が疲弊している中国を写していた
失業して故郷へ帰る人の波
病院診療を受けるために家を売って路上で眠る患者
13万円がないばかりに脳腫瘍の手術を受けられない5歳児
家賃が払えず不安で緊張した顔の若き母親
折れ曲がり かつ切断された指で 借金を頼んで回る男
痛みに泣き叫ぶ孫を抱きしめてただ泣きじゃくる祖母
そして
それを眺めながら 
温かい部屋でおなかを膨らましている私がいる

男の子の脳腫瘍は びっくりするくらいに大きくて
いったいどれほどの激痛が襲っているのかと思うと
暗澹たる思いになる

あの子が何をしたのだろう
どうして私じゃないのだろう

「ねえ あの子が生まれた意味ってなんだろうね」

つぶやいても仕方のない言葉を
それでも私は吐き出してしまう
苦しい 苦しい 
泣き出しそうだ

「確立だよ 
一定の人数の中で存在する排除のための装置」

「そんなのわかってる
あたしが言いたいのは
どうして それがあたしじゃないのか
どうして それがこの子なのかってことだよ」

あふれ続ける 意味のない会話

どうして この子なんだろう
どうして 私にしてくれなかったのだろう
私は あんまりに利己的で
平和な中に生まれ暮らしていることに
ただ 勝手に罪悪を感じて苦しがっている

神様 世界の苦しみのちょっとだけでも
私の元へお送りください
もし いるのなら 神様
私は もう十分に幸せですから
痛みに苦しむ人の痛みを私に与えてください

でも そう思う この心すら
本当は ただの欺瞞だ
苦しがる心がつらいからそこから逃れたいだけで 
苦痛を与えよとねだるあさましさなのだ

「ごめん あたし しなくてはいけないことをせずに
考えても仕方のないことばかり思い悩んでいるって 分かった」

そう つぶやく私を
友人はちらっと横目で見て
まあ 確かにその通り と 笑い

「それが おまえだ」

そういうと ぽんぽんと頭を撫でた



なんにもできない
なんにもできない
なんにもできない私がいる
それでも 誰かの苦しみを思う
無力な夜に 無常な夜に