古代のネーミング戦略 | マーケティング・コンサルタント弓削徹

古代のネーミング戦略

2000年くらい前、日本は中国王朝に貢物をしていました。

 

そのときにもらった金印には、「漢委奴国王」と書かれている。

 

日本人は倭人と呼ばれていましたから、「漢に属する倭の奴の国王」という意味ですね。

 

この「倭」とは「縮こまってひねくれた」というような意味ですし、「奴」にいたっては「奴ら」「野蛮なものども」を表します。

 

これは日本に対してだけではなく、「鮮卑」「匈奴」「蒙古」「吐藩」など、漢民族の周囲の地域・民族は、すべてネガティブな意味の漢字を当てられていました。

 

「鮮卑=はっきりと卑しい」

「匈奴=凶悪な奴ら」

「蒙古=無知で古い」

「吐藩=唾棄すべき」

                   …ガクガク

 

 

これは、漢族の周囲に「見下すべき後進国があり、困ったぜ」という中華思想に基づくネーミングです。

 

戦闘能力では漢族を凌ぐ民族も多く、漢王朝にとっては悩みのタネでした。

 

 

中華(中央に咲く華) にたいして、

 

東には東夷(とうい)

西には西戎(せいじゅう)

南には南蛮(なんばん)

北には北狄(ほくてき)

 

という「困った奴ら」が住んでおり、気を許すと国境を侵してくる、というわけです。

 

そもそも「鬼門」とは、とくに東北に住む騎馬民族にしばしば攻めこまれたことに由来します。

 

 

文化的に進んでいた中華には漢字や文物があり、周辺国は未開だったわけですから、勝手に当て字をして文書に残されるのは仕方のないところ。

 

日本の「倭人」の元は、日本人が話す我々の「わ」を聞いた漢族が意味の悪い漢字を当てたようです(いまも東北の一部では自分のことを「わ」と発音しますね)。

 

いまでは差別とも言えないような、いにしえのネーミング戦略ですが、モンゴル関係者の中には「蒙古」という表記はもうやめてほしい、と主張する方がたもいます。

 

[蒙古タンメン]さんなんて、店名変更を求められそうですね。

 

 

中国は文化として悪口を使い、広めるというお家芸があります。

現代の例でいえば、いろいろと話題のファーウェイはライバルのZTE社のことを「26」と呼んでいます

 

これは「26」を発音すると[er][liu](アー・リウ)となり、亜流、つまり二流と同じ発音になるためです(イントネーションのみ違います。イントネーション記号は打てないので略しています)。

 

これにたいして、ZTE側はファーウェイのことを「F7」と呼んでいます

 

こちらはちょっとフクザツです。

 

ファーウェイの英語表記はHua Wei。そのイニシャルはH・Wなので、Husband and Wife(夫婦)を連想させます。

 

夫婦(夫妻)は、中国語で[fu][qi](フー・チー)と発音されることもあるため、「F」、そして同じ発音になる数字の「7」を当てはめて「F7」となるわけです。

 

 

ただし、これは単純な語呂合わせだけではありません。

 

ファーウェイの社長は自分の会社の秘書と2度、結婚しています。

 

そして、共産党大幹部の娘と結婚できたことで利権を得て、爆発的に業績を伸ばした過去があるのです。

(現在、カナダで留置されているファーウェイのCFO、孟晩舟氏は大幹部の娘が産んだ子供)

 

つまり、「夫婦関係で伸びた会社」という揶揄が背景にあるネーミングなのですね。

 

 

このようなネーミング戦法は、他国にも例があります。

 

イギリスでは、「ダッチワイフ」や、ワリカンにすることを「ダッチにしよう」などと表現します。(ダッチはオランダのことですが、かつてはオランダは強力なライバルだったのです。日本史教科書の江戸時代を思い出してください。)

 

またコンドームのことは「フレンチレター」と悪口ネーミングをしています。(フランスと仲が悪いのは今も同じ。ユーロ離脱でもめている理由のひとつもこれがルーツですね。)

 

日本人には、もともとこういう意地悪な、戦略的な発想がありませんから、せいぜい[南京虫]くらいでしょうかね。