書評の、書評 | マーケティング・コンサルタント弓削徹

書評の、書評

出口治明さんの肩書きは、ライフネット生命という保険会社の会長です。


そして中身の充実したビジネス書の著者としても知られています。


しかし、ご本人が公言されているように、実際に書いているのはプロのライターさんであり、ご本人はテーマに沿った中身を口伝するのみ。


経営者としての限られた時間を考えた上での方策であると想像しますが、著書の「あとがき」をご本人ではなく、担当したライターさんに書いてもらったりするという徹底のしよう。


私の知り合いであり、有能なライター、コピーライターである小川晶子さんも、あとがき執筆の依頼が「意外でした」と、本文中で告白しています。


そんな話を聞きますと、あれだけ筋の通った優秀な方であっても、文章を書くことは苦手なのかな、などと勝手に推量していました


ところで、その出口さんは、社員の要望(SEO対策になるから)を受けて書評ブログを書き綴っています。


ライフネット生命代表取締役会長 出口治明の「旅と書評」



読んでみて驚きました。


簡潔にして、理路整然。


絢爛たるボキャブラリーと、主人公らの心情に寄り添う描写


知的好奇心を掻き立て、かつスリリングに読める名文なのです


これだけの文章を書ける経営者、いいえ日本人って、どれほどいるのでしょうか。


テクニックだけではありません。その豊かな知識と教養に裏打ちされた、厚みのある文質


それでいて文芸評論家と一線を画すのは、ビジネスマンという実践家としてかっちり地に足が着いた前傾姿勢


間違っても、空理空論はお書きになりません。


また、お読みになっている本たちの高踏たること(汗)。


自らの低レベルな乱読を振り返れば、いくら身を縮かめても足りません。


というか、これらの本が置かれている棚には手が届きません。


これだけの文才を持ちながら、ライターさんに託す度量の広さとはなんなのでしょう。

著者の端くれとして、出口さんに書評を書いてもらえる日が来たら、どれほど幸福だろうかと夢想してしまいました。

人生を面白くする本物の教養」出口治明 幻冬舎新書