いわゆる架空請求詐欺

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ずいぶん前,私が,今の事務所を立ち上げる以前のことである。

とある顧問先会社の社長から電話があった。

 

「ちょっと,うちの社員のQ君の事やねんけど,相談できるかな?」

 

顧問先の社員の相談は別料金としている事務所は多いが,私は会社自体の相談だけでなく,社員や取引先,果てはその家族の相談も,ひと月の相談回数枠内であれば,無料にしている。社員の福利厚生の一環に使ってもらえればありがたい。

 

 「つまらない事やねんけどな。」

 

 聞くと,Q君が間違って変なサイトを見てしまった。そのとき,うっかり自分の携帯電話番号を登録していまい,それから,利用料や解除料金を名目に,10万円という微妙に払えそうな金額を請求してくるようだ。

 断っておくが,Q君は「好青年」と画像検索するとそのまま出てきそうなタイプの人間である。今までも何度かお会いしたこともあるが,快活な笑顔がお客様に愛されている優秀な営業マンである。

 そんなQ君であるが,連日ガラの悪い男が電話をかけてくるので,すっかり参ってしまい,社長に相談したのだ。

 この手の案件は最近ずいぶん減ったが,いわゆる「架空請求詐欺」と総称される詐欺の一つで,利用もしてない成人向けサイトなどの利用料金として,微妙に支払うことのできる金額を請求するのだ。無論,断固として断るべきだが,関わり合いを恐れて支払う人は多い。

 社長の立ち合いのもと,Q君から話を聞き,私がその場で対応することにした。

 

 「この番号なんです」とQ君は携帯を差し出した。

 私は,早速,Q君の携帯電話からこの番号に電話をかける。録音も開始する。

ちなみに録音する際は,必ず,録音する者の名前,話者,通話開始の年月日時間,録音場所を最初に言おう。

 

 「なんだ,てめー」

 

いきなりの御挨拶である。声の感じからすると20代前半の男性だろうか。関東の人間だろう。

 

 「私,Qさんの代理人の弁護士の阪田と申します」

 「はあ?うるせーよ,ばか,てめー,なめてんの?」

 「貴殿の主張によれば,Qさんに利用料解除料金という名目で10万円を請求されておられますね。Qさんは,貴殿の提供するサービスを利用いたしておりません。つきましては,二度とご連絡しないようお願い申し上げます。ついては,受任通知を送付いたしますので,貴殿の本店又は営業所の所在地を教えてください」

「うるせーよ,てめー,てめーが払えよ,テメー,中学どこよ,●●中,知ってんだろ」

「私の出身中学は関係ありませんし,貴殿の出身中学の名前は聞いたこともありません。さて,貴殿が,Qさんに請求する根拠があるとされるのであれば,請求の法的根拠等を書面にしていただき,私の事務所まで送付してください。住所を申し上げましょうか?メモのご用意をお願い致します。」

「バカヤロー,なめてんじゃねーぞ。ふざけんなよ,こら」

 

北野武監督作品における必須のセリフはだいたい聞けた。関西にいると聞けないから,こういう機会は貴重だ。

 

「ですから,貴殿の本店又は営業所の所在地を教えてください」

「なんで,てめーにそんなことしなくちゃいけねーだよ,ふざけんなよ」

 

こんな感じで数分会話が続いた。社長とQ君はじっと私を見ている。

飽きてきた。

すると,急展開した。

 

「てめー,ヨォ。オレ,●●会の人,知ってんのよ。知ってる?わかる?」

 

知っているのは,このチンピラが,自分の後ろ盾を危機にさらしていることだ。

 

「その●●会というのは,暴力団でしょうか?そんな会があるのですか」

「知らねえーのかよ。幹部の■さん,知ってんぞ,おめー,死んだぞ」

 

そこは「明日の朝刊載ったゾ,テメー」だ。お前には,もっと読むべきものがある。カメレオン買え。

どうやらこのチンピラには,きちんとした教育はされていないようだ。

とりあえず,もうちょっと会話をひっぱろうと思ったが,突然,電話口の相手が代わった。さっきまでのチンピラでない。中年の男の低い声だ。威圧感がある。

 

「よお,悪かったな。二度と電話しねーよ」

 

いきなり切れた。

 

恐喝の証拠になるので,録音は警察に届けることにした。私は,録音の経緯について報告書を作成し,Q君と一緒に警察署に出向いた。Q君は,組織対策課の刑事に事情を話し,私も録音の経緯について担当刑事の質問に答えた。

警察署を出る時,Q君は,カツ丼は出ないんですねと,ボソッと言った。

 その後,警察からは連絡はない。

 

この間,社長から,Q君が結婚すると聞いてふと思い出した。

 

あのチンピラはどうなったのだろうかと。