前回の続きの前に,まずはお断りしないといけません。
私は,残業代にしろ何であれ,払わなくてはならないものはきちんと払うべきと考えております。
経営のためには,従業員が必要です。
その従業員は,ただで経営者の皆さんのお仕事を手伝っているわけではありません。
従業員の時間,今まで培ってきた能力,知識,経験。
貴重なものをお借りして経営をしているのです。
その従業員の勤務時間を把握し,時間内にどのように能力を発揮させるかは,経営者の力量にかかってきます。無駄な残業代が多すぎるというのは,経営者のマネージメント能力がまだまだ足りないということにすぎません。
よく,あの従業員が働かないとか,残業ばっかりで能力がないとぼやく方がおいでです。
しかし,その前に,経営者として,従業員が能力を発揮できるような環境や勤怠管理をしっかりと整えてきたか,達成目標に無理はないか,そのことを顧みてみる必要があるのではないでしょうか。
偉そうなことを言っていますが,これはある先輩経営者の受け売りです。
さて,本編に戻ります。
社長と相談していく中で,相手方の主張は,それほど正確な証拠に基づくものではないと思われました。
そこで、「時間外労働につき,立証責任は労働者側です。そうであれば,容易に応じるのは得策ではない」との結論から,
時間外労働につき,十分な立証を欠くという趣旨の内容証明郵便を作成し,送付しました。
そして,もう一つ重大なことがありました。
この元社員は,交通費を水増し請求していたことが判明していたのです。
元社員の車の燃費と自宅と事務所までの距離から算出されたおそらく正当なガソリン代と,元社員が請求していた金額が大きく異なっていたのです。
水増しされたと思われる金額は支給総額の60%にものぼりました。
交通費など経費の水増し請求は,サラリーマンが犯しやすい過ちです。立派な詐欺罪にあたります(刑法246条 法定刑は懲役10年以下)。
最初の相談からしばらくして,様々な資料を持参した社長との打合せの結果,この元社員は,数年前に会社事務所が現在地に移転してから,水増し請求を行っていたことが判明しました。
かなりの被害額です。
「社長,近日中に会社に一番近い警察署に行ってください。そして被害届をだすのです」
「しかし,警察は動いてくれるでしょうか。」
「社長,それはわかりません。しかし,その担当した警察官の方の名前と部署をすぐに教えてください」
数日後,社長から被害届を出したとの連絡がありました。私は,担当警察官に連絡し,被害状況の説明と今後の方針を説明しました。
さらに私は,内容証明を作成します。
「貴殿は,当社の在職中,通勤にかかるガソリン代名目で,金○○円を請求しており,当社はこれに応じて,毎月金〇〇円を支払っておりました。
当社の就業規則第△条においては,交通費について実費を支払うとしております。しかしながら,貴殿が通勤に必要とするガソリン代については,各月金△△円を超えることはありません。
よって,差額の各月金▲▲円については,貴殿が,当社より詐取したものであるといわざるを得ません。貴殿の行為は,詐欺罪(刑法246条 法定刑懲役10年以下)にあたる行為であります。この件については,■■警察署に被害届を提出しております。
また,当社は,貴殿に対し,詐取によって得た金●●円の返還も併せて,本書をもって請求いたします。本書到達後2週間以内に以下の口座までお支払いください。」
この内容証明の案で良いか確認するため,社長に電話をしたところ,慌てた様子で,
「先生,先ほど裁判所から呼び出し状がきました。あいつが私を訴えたようです。大丈夫でしょうか?すぐに事務所へ行っていいでしょうか?」
事態は急転しました。
続く。