◆至福の音を奏でる 宗次郎
幾たび宗次郎のオカリナの音に心いやされたことだろう…。 相変わらず精力的な音楽活動を展開する宗次郎だが、今、昨年11月に岐阜からスタートした、オカリナ、ハープ、ヴァイオリン、コントラバスによる珠玉の『クラシカル・アンサンブル~オカリナ・エチュード~』ツアーの途上にある。 今月25日には、熊本菊池市泗水ホールで人々の心を満たす。…そこで、そんな宗次郎に聞いたおしゃれの話を、再録した。 上品なグレー無地とピンクの花柄モチーフとのコンビは「コム・デ・ギャルソン」のメンズシャツオカリナ奏者 宗次郎(Sojiro)氏∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 「オカリナ」と言ったら「宗次郎」。彼の名は、今やオカリナの代名詞のようによばれる。 陶製の笛・オカリナ(北イタリアで生まれた楽器。イタリア語で「小さなガチョウ」の意)を自ら手作りし、作曲し演奏する宗次郎さん(54年、群馬県館林市生まれ)の音楽は、聴く人々の心を癒(いや)し幸せにする。 デビューまでのほぼ十年間に、一万本焼いて、数十本だけが意に叶う名器としていまも音(ね)を奏でている。 栃木の谷間の村で出会った、火山久氏(かやまひさし・作曲家、25~97年)の吹くオカリナが、まるで天命でもあるかのように彼の歩むべき道を決意させた。 NHK特集・紀行ドキュメンタリー「大黄河」(86年)の音楽で、一躍脚光を浴びた彼は、活躍の場を与えられると、堰(せき)を切ったようにほとばしる感情をオカリナで紡(つむ)ぎ出した。 アルバム「木道(きどう)」「風人(ふうと)」「水心(すいしん)」で、第35回日本レコード大賞企画賞を受賞(93年)。 映画「良寛」(97年、瀬戸内寂聴原作)の音楽監督、青森三内丸山遺跡での野外コンサート(98年)、アルバム「天空のオリオン」(00年)、「イアイライケレ」(02年)など、日本の音楽シーンに唯一無二の歴史を刻み込んできた。 「オカリナ・エチュードコレクション」(シリーズ5作目)、「遙かなる尾瀬」(NHK-BSハイビジョン~尾瀬・命の調べ~テーマ曲)が大好評である。∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最高の音色を出すツール 「オカリナは衣装にうるさいんですよ」宗次郎さんは、そう言って、はにかむように笑った。デビュー当時から少しも変わらない無垢(むく)な微笑みだ。 「オカリナを吹くと、音が胸のところを通り抜けていくんです」 高音を出す時は、オカリナをグッと胸の上に引き寄せる。 前身頃の胸に飾りがあしらわれたシャツや、アクセサリー類とか、厚手のジャケットを着たときに出る胸元の大きなシワは、音色をデリケートに左右してしまう。だから、ステージ衣装は、スタンドカラーのジャケットや、すっきりとシンプルなデザインのシャツブラウスが多いと言う。 「何も着ないで吹くのが本当は一番良い音が出るんです。でも、皮膚に近いからと言って、皮革(かわ)は不思議にダメなんですね」 天性のオカリナ奏者と相性の良いブランドは、昔から「イッセイ・ミヤケ」! シワはダメと言っても、「プリーツ・プリーズ」が織りなす繊細なヒダ(ポリエステル素材)は、なぜか音色に艶を添える。三宅一生の卓越した才能が生み出す作品は、美しさと機能性を併せ持っているからか。 究極の音を求めるためだけでなく、衣装は、毎年リリースするアルバムやコンサートツアーのタイトル・イメージを、色や形で表現する重要な演出ツールでもあることから、オーダーメードになることが多い。今は、衣装デザイナー兼スタイリストの鷹尾由美さんがその任を担っている。例えば、「オカリナ・エチュードコレクション~リクエスト~」では、照明の変化に呼応し、シルク素材を生かした白と黒を基調にする衣装が、ステージで良く映えている。 「イッセイ・ミヤケ」や鷹尾さんの服は、袖を通し身につけていくと、まるでおごそかな儀式を経ていくように、彼をステージ上に導いてくれるとか。 遊び心のある服は楽しい 「作っている人が心から遊んでいるなと思える服は、それだけで楽しくっていいですね!」 例えばこの「コム・デ・ギャルソン」はと言いながら、彼は、「イッセイ・ミヤケ」の黒いジャケットを脱いで、その下に着ている無地と、花柄コンビのリラックス着を披露してくれた。 上品なグレーとピンクの配色がなされたワイドシルエットのドレスシャツは、こちらにまで元気が伝わってくる。 宗次郎さんというと、長い髪を後ろで束ねた、ちょっと浮き世離れした感じがする音楽一筋の人というイメージが強かった。ますます多忙を極める最近の彼を、色でたとえるなら、温かく変化する赤色のグラデーションというところか? 有楽町の阪急百貨店にあるショップに出向いて、FAから着こなし提案を受けたときなど、思わぬ発見があるとか。 「このシャツには、うまくピンクが使われていて、それが表情も気持ちも和(なご)ませてくれるんです」 自分には似合わないと思っていた色やデザインが、意外に映えることにも開眼した。 「好きなものと、似合うものは違うんだなとつくづく思いました」 好きなファッションは、自己完結してそれで終わってしまうけれど、似合う装いは、他者のリアクションも引き出してくれ、おしゃれの世界が広がってとても楽しい。 「イッセイ・ミヤケ」のジャケットとドレスシャツのコーディネイトで、つかの間のリラックスタイム 空気を耕すオカリナ 「私の音楽がどこかで皆さんを幸せな気持ちにさせているとしたら、それは、皆さんを包んでいる空気をオカリナで耕しているからです」 彼は今も、自らの手で土をこねてオカリナを焼く。 「オカリナを焼いていると、一生を土と関わって生きた祖父のことを思います。土を耕すことが人々の幸せにつながることを示してくれた祖父から、私は大切なことを学んできた気がします」土でできた原始的な笛・オカリナに息を吹き込んでいる時は、祖父の生き方をなぞっているように思えるとか。 彼のステージは、どれも印象に残るものばかりだ。佐賀県吉野ヶ里遺跡を背景にして催された野外コンサート(91年)で、オカリナの旋律とまるで戯れるように揺れるロングジレー姿は今も鮮やかに甦る。 「ジレー風のものは、胸から重力がすっきりと降りている感じがいいんです。体にまっすぐな重力と、足裏から伝わる土の感触を感じながら、私はオカリナの音そのものになり自由になるんです」 ◇ ◇ ◇ 「オカリナは、できれば生で聴いてもらいたいですね。皆さんの体の中に響きとして残っていて欲しいんです」 宗次郎さんのオカリナは、空気を耕し、心の糧(かて)を植え付ける。 (PHOTO:DOMINANT LIMITED)宗次郎オフィシャルHP 《〈おしゃれ風見鶏〉より》Copyright(C)2007 JULIYA MASAHIRO All Right Reserved. 【無断転載使用不可】