人気blogランキングは? 私は、すっきりと明晰な頭脳を持つ人のように、三半規管をコンパスさながらに使い、今、在る「場」と、先に向かって打つ心音によって、流れゆく「時」を確認すると、明らかに覚醒していると、ホッとする。
 いや、それも束の間だ。
 次の瞬間、脊髄を駆け上るようにして襲ってくる得体の知れない感覚が、目頭から身体全体をジワジワと覆っていく睡魔となり、私の覚醒は、重く気怠い肉厚の皮膜に拘束されていく。
 私は、目蓋に力をこめ、凍り付いていく身体に温かい気力を吹き込むようにして、眠りの誘惑に必死の抵抗を試みる。
 だが、まるで早乙女に魅せられ、うっとりと潤んだ瞳の少年のように、眠りの底にズルズル、ズブズフと引きずり込まれ、もはや拒むこともままならぬまま身を委ねてしまう。
 やがて、ニューロンが極上のオーガズムを味わう心地よさで、夢に喰われ、夢だけに満たされた空間に、私はゆらゆらと漂い始める。
JULIYA KODAMA パノラマのように展開される原色の夢は、私の目の前に迫ってパッと消滅してしまうものもあれば、ディゾルブして現れたり、ビリヤードのテーブルに飛び交うカラーボールのように、私を目眩ませするものもある。
 それらのほとんどが、なぜか私の知る女たちと私との愛憎劇…いくつものストーリーが瞬時に、しかも幾重もの展開をみせ、過去から、今の私へとまるで因果応報と言わんばかりの結末を描いて繋がっている。
 こうして、夢と戯れることはしごく簡単で、結構、楽しかったりもする。それに、女たちはみな愛おしく、私にやさしい微笑みをくれるのだ…。
 いや今、そんな蜜の誘惑など、どうでもよい。
 私は、次々とまとわりつく夢を振り払い振り払いして再び覚醒しようと、心底、強く望んでいる。
 私はCHIKOに呼びかけ、忠誠を誓おうとする男なのだ。
 そこで、夢の狭間から言葉を探し出し、絞り出すモノローグのように語りかける。
 それは、CHIKOへの、私からのサイン…。
 「ほらCHIKO、ここだよ。おまえの中に、柔らかく優しく温かく包まれて、ここにいる。おまえは、きっと、私からのこの呼びかけ…そう、私の、恐らく意志のような微かな動きを感じとり、おまえもおまえで、穏やかに満ち足りた至福の時の流れに身を任しているのかしら…きっとそうだ。そうだとしたら…」
 ゆったりとした背もたれの長椅子に身体を横たえたCHIKOが、私のサインをなぞっているのか、天蓋に包まれた空間に、子供のように小さな指先を筆先のようにゆっくりと這わせ、言葉を描いているように、私には見える。
 明らかに私を感じているに違いない。
 「決して私を裏切ることのなかったCHIKO…私は、そんなおまえの一途な心に、卑怯にも胡座をかいて慢心していたのだ。おまえが私を感じながらも、私が見えないのは、それはきっと、私のせいだ。私の逡巡は、おまえのピュアな心に値しないことを痛いほど知った男の羞恥のあまりの尻込みのようなもの…」
 言わねばならぬ、言葉で伝えなければならぬという私に課せられた、そう使命のようなものは、あれほど読みたいと思い続けてきたハードカバーの一冊、例えば、かつて貪るように読んだヘンリー・ミラーを手にした途端、極めて冷静に読む気を失ってしまうのと、なぜか同じように殺がれてしまう。
 あるいは、人々とともに在ることを拒否し続けてきた日常生活の、きっとそれは代償…無名であることを望んだしっぺ返し…。
 今は、夢を夢とすることのないように時は流れている。
 透き通った果てのない場…私のあらゆるリビドーが冷たく横たわっている、「罪と罰」のない私の夢…つまり、無名の人としてCHIKOとともにあった日常生活の夢のような楽しさと、ひきかえにした、あえて選び取った「覚醒した私の不眠」が、こうして始まる…。
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