人気blogランキングは? 「なぜなの、KIMI、わかっているのよ、ここに来てくれたことは…。あなたは、岬の館にいるこの私に会いに来たのよ…ねェ、私が大好きなあなたの、あの笑顔を早く見せて。そうよ、たとえ、セーヌに行き着かなかったとしても、今は、そんなことどっちでもよいことなの。結局のところ、私はあなたの、ちょっと恥ずかしそうな、くぐもった笑い声と、白い歯を見せて大きく笑う、くったくのない笑顔を、いつも、ずっと見ていたいだけ…。どんなことがあっても、私は、KIMI、あなたのそばにいたいの…たとえ、あなたが、女とベッドの中にいたって、私はあなたを信じていたの、そうよ、とても可笑しなことよね、これっぽっちもあなたを疑っていなかったなんて、なんて馬鹿な女なんでしょう…だから、あなたがあの女に最後通牒を出した挙げ句にできた傷なんて、笑い飛ばしたいほどちっちゃなものよ…そう、私の傷ついた心に比べれば…ねェ、どこにいるのKIMI…傷はもう大丈夫なはずよ…あれから、随分と時は過ぎ、巡り巡っているのよ…」
 まるで、緞帳の裏側にでも、「こちら側」をくるりと反転して存在している「あちら側」から届いてくる、エコーをかけた静かな響きをもった、なつかしくさえあるCHIKOの声が、それでも、唇にそっと触れられるくらいすぐそこからのように、私の耳殻の中へ忍び込み、間断なく私の意識を捉え、なんとも心地よい刺激をもたらし、私は思わずうっとりとしている。
 「求めさえすれば」…呼びかけさえすれば、ここから抜け出せるのだと分かっていても、私は、未だ漆黒の闇に漂うように満足げにしっぽりと包まれている。
 なぜだろう…あれほどにもCHIKOは、私の中に住みつき、私はCHIKOの存在に、これ以上ないというほど幸せに満たされたいたというのに…あえて、そう、あえてとった行動が、私を待ってましたとばかりに呪縛し続けているのだ。
 一体、私は、女たちに何を求め、結末の分かった「三文オペラ」のようなシナリオをひっさげて、何を好き好んで、険しく錯綜した泥沼のような道に入っていったのか…なんのために…。
 甘い誘惑…とろける愉楽…しとど濡れた女から、後ろ髪を未練がましく引かれるような、艶っぽい視線に絡みつかれ、拒んだら最後、もろともに奈落の底に落ちていく…幾たびも幾たびも…私は、まるで都合の良い弁証法を試みるような具合に、女たちの悲しむ姿を見たくはないなどと都合の良い認識をし、私にとってベストの選択をしているのだと、何の根拠があるわけでもなく、かたくなに自らを信じ込ませて彼女たちの中に止まってきた。
 仕方のないことだったのだと、強引に卑怯な納得をさせながら、挙げ句の果てに、最も愛さなければならない女のもとに、手負いの醜態でヨタヨタと舞い戻ってきたってわけだ。
 まるで何もなかったかのように…なんてこと、さすが恥知らずの私とて、おいそれと出来るわけはない。私にも、CHIKOには、こんな姿を見せられないという矜持があるとは、とどのつまり、ええ格好しいの卑怯者なのだ…。
 「ねェ、どこにいるのKIMI…」
 私は、ついに渾身の踏ん張りをきかして決意する。
 今ここに、とても不思議だけれど、かつて、いかようにも私をコントロールしていたセクシャルな欲望もなければ、根源的に光を欲しがるような欲望すらもない…無数の欲望を綯い交ぜにして私を操り人形のように情動させていた、錯綜した糸からも、すっきりと解き放たれている私がいる。
 さあ今だ、今、ここで、CHIKOを求めるのだ。
 「CHIKO…おまえに会いたい…」Nepal
 私は今を感じているだけだからこの温かく柔らかな心地よさは、恐らく瞬間の時の積み重ね…いや違う。失われることのない時、永遠に保証された安堵なのだろうか…。
 もはや「私は誰?」という迷いはない。いや、そんなことを知る必要などありはしない私の存在…。
 やがて私が行き着く先の、全ての呪縛から解放された浮遊感…私が私と意識することなく、私を形作る細胞の一つ一つが私を裏切ることなく私の中に収まっているような…私である場…ただ単に感覚や思念の場に過ぎない私…。
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