人気blogランキングは?  「パパ、よく眠れませんか?僕がいなくなっても、眠れるかな?元気をだして眠っていただきます!」(大江健三郎「水死」より)
 どうしたことか、ゆっくりと目で読み下しながら、とめどなく流れてくる涙に、私は活字をたどることすらもできなくなった。…ふるさとでお正月を迎え、東京に戻る新幹線…。
 もちろん、パパとは、この小説に登場する長江古義人…私ではない。そして、そう言ったのは、彼の長男アカリで…我が息子ではない。とすると、私は一冊の本の中に、一人の登場人物かなにかのように迷い込んでしまったのか。
 私より一回り以上も年の離れた大江健三郎さんの小説は、発表されるはじから、ほとんど全てを読み続けてきた私は、書かれる世界が「肌に合う」などという言い方があるとするなら、恐らくそのようにしか表現できないほどの「読み手」であろう。あげく、若気の至り的えらそーな「卒論」の俎上にも載せたりするなど、おこがましいこともやったけれど、「水死」に登場してきたウナイコや穴井マサオなどより長く大江作品にはまってきたことは確かだ。
 これは、同じような土地に生まれた者が、迷い込んでしまう次元のない「ラビリンス」なのかもしれない。私も、山間をぬってきた川が大きく蛇行して町に流れ込む「場」で育った。思い出の多くが川や山にまつわるものだったりする。
 暇を見つけては、ゆっくり浸るように読んで、終わって欲しくない奇妙な思いに引きずられながら、読了して数日後、「読売新聞」に尾崎真理子(聞き書きにかけては天性の触角がある)さんの、“大江健三郎さん新作「水死」完成”というインタビュー記事が掲載された。
 大江さんの「晩年の仕事」はこの5作目で、本当に終わりなのだろうか。古義人とアカリに、また会いたいと、思うのは、私だけではないはずだ…。

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