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       やさしい性を持った子よ!
おまえを思うと、いつもとまどい、まよい、ためらい、後ずさりし、
目をおよがせ、目をふせ、目を閉じ、逃げ場のないことがわかると、祈りながら言葉を探す。
美しく微笑みながら生まれてくる子を願っていた私に、
どうしてみても届かない想い…。
おまえは幾たびも悲嘆の淵に立たされ、幾たびも不分明な己の性を呪ってみた。
産まれながらに、生きてあることの不条理を内包しているおまえに、
言葉の輪郭さえ結べない私は、ただ黙って、いとおしい愛を注ぐしかなかった。
けれど、幾千の言葉を砂糖菓子のようにまぶして贈るより、
涙の向う側に、そのままでいるおまえを、柔らかな眼差しで見つめている方が、
せいいっぱいの今の姿で、応えようとしているおまえには、
きっと安らかであるに違いない…。


夢に 彷徨う
温かい 毛布に 
丸く包まれて
小さな鼻で
透明な 寝息をたてて 眠っていた おまえが
いない
白く 柔らかい感触を
掌に 包んで ゆっくりと 味わうと
おまえは 肩を 交互に縮めながら
こぼれるように コロコロ 笑って
目蓋を しばたいて みせていた
 アァ おまえに 何を してやれた の だろう
漆黒の 闇に 後悔が 渦巻いている
恐怖が 飛び交い 襲い
私の 鳥肌だった 皮膚に チクチクと 刺さる
 パパ 生きているの
天上から 遠く 透き通った 声が 響く
 パパ どうして 一緒じゃ ないの
こなごなになった 言葉が
足裏で 紡がれ
やがて スルスルと 後悔の闇の中に 伸びていく
 ほら ジャックとマメの樹 を 思い出すんだよ パパ
私は すがるような 気持ちで
言葉の羽衣 を 掌に からめ つかむ
一歩一歩 両脚に 力をこめる
群がるハエのような 黒い言葉が まとわりつき
行く手を さえぎり はばむ
 深淵に 落ちていく前に おまえに 言っておきたい ことがある
急激に 力が尽きて くるのが よくわかる
来る日も来る日も
来る年も来る年も 上り続けて きた から
 大丈夫 パパ
 パパは やれるんだ
 おまえに 言っておきたい ことがある
足腰は もう 限界に 近い
 オヤ 嗄れた声 がする
バラのツタに
血まみれになった 老人が よたよたと しがみついて
揺れている
それでも 上へ 上へと
 パパ 大丈夫
 ボクが ついている から


(『陽のあたる黒点』より)
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