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 東京新聞(11月20日付)が、この29日、NHK-BS1「BS世界のドキュメンタリー」の枠で、『緑の海平線~台湾少年工の物語~』がOA(21:10~10:00)されることを報じていた。

 監督は郭亮吟(台湾)、プロデューサーは藤田修平(慶応大学環境情報学部専任講師)…二人は南カリフォルニア大・大学院に留学し映画製作を学んだ同窓である。

 すでに、台湾全土の大学で巡回上映されたりテレビで放映され、台北国際映画祭では、ドキュメンタリー部門の審査員特別賞をみごと受賞するなど評価の高い作品である。

 私が、そのOAを楽しみにしているのには、ちょっとしたわけがある。…以前にも少しふれた故楠木徳男監督と企画した劇場用映画『せみしぐれのメモリー』が、まさに、「高座会~台湾少年工たち」(神奈川県“高座海軍工廠”で志願した8千余人の台湾の少年工たちが雷電を作っていた)をテーマにしたものであったから…。

 それにしても、藤田プロデューサーは、03年から、かつて海軍工廠の宿舎があった大和市に住みつき、郭監督とともに、台湾、日本、米国、中国を行き来しての調査・撮影を行い、完成まで4年を費やしたというから、その熱く純粋な「食いつきぶり」に脱帽である。

 さて、そんないきさつもあって、ごそごそと資料をひっくりかえしていたら、小冊子にまとめられた企画書(シノプシス)が見つかった。

せみしぐれのメモリー  80年代半ばに書かれたそれは、キャストに、植木等や萩本欽一、吉田拓郎、レオナルド熊などが名を連ね、なんとも懐かしさにあふれ、気恥ずかしくも「我が青春、ここにあり!」の感に、しばし陥ってしまうほど…。今どうのこうのとするつもりはサラサラないのだけれど、しかし、当時の日台関係や世相を映し出していておもしろい!

 それに、遠くお線香も供えず手を合わせてもいない楠木監督に(※薄情者と言われようと、私は、徹底して葬式に出ない主義者である)、この企画書を抜粋するのも少しの“手向け”になるのではないか、という気分になっている…。

 というわけで、以下、何回かに分けて、一言一句そのままに(時折※注をいれながら)掲載してみよう。


            劇場用映画企画書 『せみしぐれのメモリー(仮題)』


《企画意図》


 第二次世界大戦の末期、台湾から8千人以上にも及ぶ少年たちが、徴用工として、日本にやって来ていた。
 この事実を、日本人の中で知る者は少ない。
 神奈川県大和市にある善徳寺には、当時、少年工たちの世話をした一人の元海軍技手の建立した“戦没台湾少年之慰霊碑”がある。
 台湾から来た少年工たちは、その青春の輝かしい一時期を、日本のために捧げ、中国人(※80年代はまだ台湾人意識を表沙汰にすることはタブーに近かった)として生きる今も、当時に懐かしい想いを寄せているという。
 今日、日本の若者たちの青春はどうだろうか。
 フィーリング世代(※!!)と呼ばれている彼らの青春は、なぜか虚ろで、彼らの手にしている自由は、なぜかお手軽でおぼつかない。
 彼らとて、全身全霊を打ちこめる体験と、確かな感動が欲しいに違いない。
 今、中華民国・台湾から、一人の女性歌手が、日本でデビューを夢みてやって来る。青春の真っ直中にいる彼女が、初めての日本で、さまざまな困難にぶつかりながら、少年工として日本にいた彼女の父の時代に目を開いていく。その追体験の中で、彼女は、自分の歌うべきものを見つけ出し、自らの青春を掴んでいく。


 映画は、二つの時代の青春を二重写しにしながら、音楽的要素を縦横に盛りこんで、特に若者たちに感動を呼ぶエンターテイメントとして新鮮な感覚で描き上げていきます。
 主人公の生き方は、そのまま、現代の若者たちの、シンデレラ願望(※このあたり、ちょっとおもしろい!)を充分に満足させるものであり、少年工たちと、それをとりまく者たちのドラマは歴史の真実として深い感動を呼ぶことを確信いたします。

 また、メイン・キャストとして、吉田拓郎、萩本欽一、植木等、レオナルド熊等、従来にない漸新なキャラクターを起用し、その持ち味を巧みに生かしていきます。
 映画の中での主人公のデビューは、そのまま現実のデビューでもあります。レコード発売、CM出演などと連動した宣伝効果も考えられます。
 中国人キャストは、新人・田麗をはじめとして、個性派俳優・孫越等を配し、充分に期待に応えられるものにしていきます。
 この映画は、二度と体験してはならない青春を送った者たちからの現代の若者に贈る、言わば激励の愛と平和のメッセージです。


《主な登場人物とイメージキャスト》 (※故人も何人かいるけれど…)


○ 李麗花(18才) 田麗(新人)

この物語のヒロイン、シンガーソングライターとしてデビューすることを夢みて、父親・祥林の反対を押し切って日本に来る。さまざまな困難に出逢い苦悩しながら、自分の歌うべきものを発見し成長していく。

○ 李祥林(58才、その少年時代) 孫越

麗花の父。その少年時代の数年を、少年工として日本で送った。

○ 李玉美(50才) 江霞

麗花の母。戦後祥林と結婚、典型的な中国婦人。

○ 伊藤進一(35才) 吉田拓郎

ABCレコードのディレクター。台北で、偶然、麗花の歌を聴きその才能に注目する。
麗花を日本に招き、プロ根性に徹して、彼女を育てあげる。

○ 早瀬金次(30才~70才) 萩本欽一

高座海軍工廠で、海軍技手をしていた。
台湾から来ていた少年工たちに、兄のように慕われた。
空襲で死んだ6人の少年工たちの慰霊を自らの生の証として、縁りの寺・善徳寺に慰霊碑を建立する。

○ 松島淑蓉(25才) 洪若藍

米国留学中、商社マンの松島正雄と知り合い結婚する。
原宿にある自宅の離れを麗花に貸し、陰に日向に、麗花のめんどうを見る。

○ 森山陽子(29才)  残間里江子

東洋新聞社の女性記者。伊藤進一の女ともだちで、情報源としても貴重な存在である。

○ 柳川敏成(55才) 植木等

善徳寺先代住職。少年工たちから、父親のように慕われていた。

○ 柳川明子(18才) 安田成美(新人)

敏成の娘。少年工たちの服のほころびをつくろったりするやさしさと、その美しさの故に、彼らのあこがれの的となる。

○ 柳川正成(50才、その子供時代) レオナルド熊

善徳寺住職。子供時代を少年工たちに可愛いがられてすごした経験を持ち、長年にわたって、日本と台湾の親善につくしてきた。


《物語の発端と展開》


 原宿、表参道…街は、まだ眠っている。
 夜明け前の暗さが、小さな部屋までも満たし、張りつめた静けさが、麗花の輪郭を隈取りながら揺れている。
 うっすらと白みはじめた窓からの柔らかい光に麗花の、かすかなハミングがからみ合う…
 日曜日の歩行者天国…そこは何かを求めてやって来るさまざまな若者たちでいっぱいになる。

                      ☆     ☆     ☆

 198×年、夏…あれからまた、“せみしぐれ”の季節がめぐってきた…
 せみしぐれ…それは、若者たちの青春の一瞬の輝きに、あまりにも似ていないだろうか…
 この物語は、二つの時代と二つの国を越えて、青春を懸命に生き抜いてきた若者たちの生の証を語ろうとするものである。

                      ☆     ☆     ☆

 麗花が、ABCレコードのディレクター伊藤進一の前に現われたのは彼が台湾に於ける洋盤レコードの市場開拓のためのマーケティングリサーチに、たまたま台北を訪れている時であった。
 伊藤の泊ったホテルのシアターレストランで、麗花は歌っていた。
 伊藤は、麗花の唄に、東洋的なものと西洋的なものとの、みごとな融和の芽を感じとった。
それは、充分に日本の若い世代にも受け入れられる要素を持っているものだった。
 伊藤は、ステージを終わった麗花に思いきって声をかけてみる。

                      ☆     ☆     ☆

 麗花を日本に呼び、レッスンをし、レコードデビューをさせる。そんな目論みが、伊藤の心の中に、頭をもたげてきていた。
 伊藤は、筆談で、やっと麗花の父・祥林に会うことができたが、おだやかな物腰の祥林は、しかし、頑として頭を縦にふらなかった。
 娘が日本に行くことに反対する余程の理由があるように思われた。
 それでも、伊藤は、本来の仕事そっちのけで、何度も祥林を尋ね、熱心に説得した。祥林はついに娘さえよければと、静かに頭を下げるのだった。
 日本に帰った伊藤は、やはりいい顔をしない上司を説きふせ、麗花の来日の準備に奔走する。
 伊藤は、麗花を意地でもものにしてみせると密かに自分自身に誓うのだった。

                      ☆     ☆     ☆

 そんな時、伊藤は、ふと立ち寄った書店の中国関係コーナーで、若い中国女性と思いがけない言葉を交わす。
 彼女は名を、松島淑蓉といい台湾から日本男性に嫁いで来ている女性であった。
 伊藤が麗花のことを話すと、淑蓉は台湾に残してきた妹のかわりに是非、自分に世話をさせてくれないかと申し出るのだった。
 淑蓉の家は、原宿の街の裏手にあり、小さな離れが空いていると言うのだ。

 (次回につづく)

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