ニットカフェブームが語る

   ジャポニスム(市松柄)ムードが漂う、

    温もり感のある厚手のニットアイテム(ミラノ)


 ニットのムーヴメント


 わが国にも「ニットカフェ」なるものがお目見えしたと思ったら、結構人気で、今後もこのまま波及していきそうな気配だ。
 「ニットカフェ」繁盛のそもそもの発端は
米国…01年9月11日に起きた悲しい出来事にあるという。

 TVをはじめとしたメディアによって、図らずも多くの人々が同時体験を共有することになった。…心身ともに打ちのめされていた人たちが、「温もりやふれあい」「心の安定や癒し」を求め、立ち直る努力をしていた過程の中で見いだした一つが、「ニットでの交流」だったようだ…。
 「連帯感を持てる場所」「やさしさをこめられる素材やツール」「大切な人への思いをつなげられる手作業」…それらを満たしてくれたのが、身近にあった毛糸での「手編み」だったのか。ポッカリと空いた心の中から自然にわき出てきたムーヴメントだったに違いない…。

 聞くところによると、ジュリア・ロバーツやキャメロン・ディアス、はたまたラッセル・クロウなども「手作りニット」の魅力にはまっているそうだから、ハリウッドスターたちがブームをあおってきたのかもしれない。
 わが国では、美しいモチーフとシルエットの繊細な作品を生み出している「ニットの貴公子」こと広瀬浩治がなんと言っても象徴的な存在だが、それ以前は役者の林与一が「編み物の達人」として知られていた。
 今や「ニットカフェ」ブームの担い手のかなりな部分を、男たちが占めているという。…巷でも「編み物は女のすなるモノ」ではないのだ。
 都はるみの「♪着てはもらえぬセーターを…(『北の宿から』)」のフレーズは、女が愛する人に贈る「編み物」だったが、男が自らの「マイ・セーター」「マイ・マフラー」「マイ・キャップ」を手編みする時代になったわけだ。ひょっとして、この歌の主人公は、いかつい男だったりしてもおかしくない…。


 メリヤスだった頃の思い出


 「編み目」について、その道のプロでない私が語るのは気が引けるが、かつてよく聞かれた「メリヤス」編みという用語は、ご存知のように漢字で「莫大小」と書く。
 「メリヤス」とは、いくつかの資料を調べると、「メリヤス機」で編んだものの総称らしい。スペイン語の靴下を指すmedias(メジアス)がなまったという。
 専門的には、表側は表目ばかりになり、裏側は裏目ばかりになる「平編み」という編み目で、もっとも基本的なヨコ編み(緯編)パターンの一つを指す。
 かたや、「編み目模様」もいろいろある。

 近頃は、ニットの仲間であるTシャツや単純な薄手のセーター、ジャージーなどに慣れてしまった人が多いが、伝統の「アーガイルセーター」「ノルディックセーター」「アランセーター」なども、市場にもっとあっても良いだろう。
 そういえば、青春のまっただ中にあった70年代(安保闘争後)のキャンパスで、手に入れたいと切望したセーターがあった。
 それを、「フィッシャーマンセーター」だと教えたくれたのは、およそファッションからかけ離れた風体の、「プルースト」の原書を抱えた、何ともちぐはぐな九州男児だった。

 アーガイル・チェック(ダイヤ柄)を    「所詮ブルジョワジーの着るモンさァ。自分(おまえ)

 色づかいで変化させたメンズセーター  には無理さァ、生協にはないもんな…」

ニットカフェブームが語る   訛りの抜けない東京弁で、ポンと私の肩をたたいて言った。
 当時は、三田の慶応ボーイが、色白の面立ちに、ざっくりとナチュラルに着こなしていて、なんとも清々しかった。そんないでたちの学生が、高田馬場あたりに出没しようものなら羨望の的で、ファッションの「早慶戦」の勝敗は決まったも同然だった。
 一世を風靡した映画『ある愛の詩』(70年公開)の中にも、同じセーターを見かけたから、感動が尾を引いて、憧れ感を余計に増大させたようだ。

 後になって、「フィッシャーマンセーター」は、アイルランドのアラン諸島が発祥の地で、漁師と、その妻たちの手で編まれたと知った。
 本来の流れをくむセーターの場合、ラグラン袖に「縄」や「浮き」、「カモメ」などをモチーフとした模様が特徴で、海で遭難した時には、身元の割り出しに一役買ったという。模様の組み合わせや、一カ所だけわざと編み目を間違えて編み上げることで、「どの村の誰」とわかるようにしたそうだ。
 他には国を問わず、野性的な「カウチンセーター」(…カナダ、カウチン族が編み出した)や、ダイヤ柄の「アーガイルセーター」がポピュラーに愛され続けてきた。


                  ☆         ☆         ☆
 
 十年ほど前になるだろうか、「ミッソーニ・オペラ」(セゾン美術館~99年閉館)が、オッタビオ・ロジータ夫妻の創作活動40周年を記念して開催された。…「花」「ストライプ」「ジグザグ」「アフリカ」などの自然界の色の美しさと、ニットの編み出す縦横無尽なレリーフとをコラボさせた、「ニットのメロディ」を奏でていた。
 それが長く尾を引いていたのか…何回か訪れたヴェネツィアの、小運河に抜ける小さな通りの小さなウィンドウに、ミッソーニの作品を見つけたときは、旧知の誰かに巡り会えたような心地よい安堵のため息がフッともれた…。

〔PHOTO:DOMINANT LIMITED〕
《ファッショントークより》
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