●概要
家畜商は家畜商法に基づく国家資格。
家畜商法に定める家畜を売買、交換、斡旋するには家畜商免許が必要になります。
ここでいう「家畜」とは牛、馬、豚、羊、ヤギの5種類のこと。
例えば、畜産農家から牛や豚を買って食肉処理業者に売るには家畜商免許が必要です。
他にもペットショップで仔馬(ポニー)を売るには家畜商免許が必要になります。
逆に、鹿、猪、鶏などは対象外のため家畜商免許は不要です。
家畜商免許は2日間にわたる家畜商講習を修了し、供託金を預けて交付申請することで取得できます。
家畜商講習は誰でも受講可能です。
講習は各道府県で年1回実施されていますが、県によっては隔年だったり、隣接の県と持ち回りで実施しているところもあります。
なお、東京都は実施していないようです。
ダチョウ倶楽部の寺門ジモン氏も持っていることで知られる家畜商免許。
講習を受けるだけで取れるなら私も取ってみたいな~と思っていたところ、
地元の千葉県で講習が開催されることを知り、申し込みました。
受講料は道府県により異なりますが、大体3,000円~3,500円くらい。
私が受けた千葉県では受講料3,500円で、テキストが3,150円でした。
●講習1日目(2019.07.23)
講習は2日とも千葉家畜市場で実施されます。
JR都賀駅から徒歩20分ほどのところにあります。
市場内に無料駐車場があるので、車で来る受講者も多かったです。
市場の中にある千葉県家畜商会館で受付を済ませます。
受講者は私を含めて13名。女性は1人だけでした。
メインテキストは日本家畜商協会編集の「家畜取引の知識」。
その他に副教材の印刷物が配られました。
9時から開講式があり千葉県庁の畜産課長からご挨拶があった後、講義が始まります。
初日は家畜商法、家畜取引法、家畜伝染病予防法などの法律課目が中心でした。
その他に千葉県の畜産の現状や、家畜の品種と特徴を扱う課目もありました。
千葉県は畜産産出額が全国5位(農業全体では4位)で、全国有数の畜産県なんですね。
千葉県で生まれ育っておきながら今まで意識したことがありませんでした。
17時になり事務連絡の後、初日は終了となりました。
この日は座学だけでしたが全く退屈しませんでした。
講師は保健所の職員や獣医師など畜産のプロで、専門的な話を分かりやすく話してくださるので聞いていて面白かったです。
国産牛と和牛の違いや、最近ファミレス等で見かける三元豚・四元豚とは何かといった雑学的な話もあり、勉強になりました。
また、昼休み以外にも途中途中で10分ほどの休憩を入れてくれたり、受講者を疲れさせない配慮もありました。
2日目は実習があるとのことで、楽しみです。
●講習2日目(2019.07.24)
2日目は午前中に家畜の悪癖、機能障害、疾病の講義がありました。
昼休みを挟み、午後からは家畜商会館を出て実習です。
まず、模擬競りの実習。
購買控帳とPOSが配られました。
お目当ての家畜が競りにかけられる時にPOSのボタンを押し続けることで値段が上がっていく仕組みとのこと。
以前見た築地市場の魚の競りでは、売る側と買う側が他の人に見えないように指を握り合って価格を決めていました。
家畜の競りは無線端末で価格が決まるのでデジタル化が進んでますねぇ…
実際に体験させてもらいました。
1人が売る側に回り、それ以外の受講者が買う側に回ります。
競り人がリアリティを出すために「黒毛和種、去勢済み、〇〇kg、〇〇万円から」といった感じでその都度設定を変えてくれました。
競り落とす度に「妥当な価格ですね」、「相場ではもう少し高く売れますね~」などと競り人からコメントが。
異常に高い値で売れた時には「皆さん牛 知ってますか?凄いですね」とのコメント(笑)
次に家畜の鑑定と審査の実習。
実際にホルスタイン種の牛を触らせてもらいもらいました。
牛に触るのは初めてでしたが、思ったより温かかったです。
これが「命」の温かさなんですね。
家畜にストレスを与えない近づき方・接し方や、体温や体高の測定方法を学びました。
また、良い牛とはどのような牛なのかをかなり細かく解説してくださいました。
家畜商なら家畜を見てどれくらいの値がつくか判断できないといけませんからね。
以上で講習の全課程を終えました。
特に修了試験のようなものはありませんでした。
閉講式では1人1人名前を呼ばれ、修了証明書を手渡されました。
授与の際には他の受講者から自然と拍手が起こり、とても和やかな雰囲気でした。
A4サイズの厚紙で、上部に割印が押されています。
この修了証明書は全国で有効で、千葉県で講習を修了した者が北海道で免許を申請することもできます。
また、家畜商免許自体が全国で有効なので、どこの県で免許の交付を受けても全国で家畜商取引ができます。
●受講を終えて
とても充実した2日間でした。
講習を終えて、食肉に対する考え方が少し変わった気がします。
牛丼やステーキを食べるにしても、どこで調達したどのような肉なのかを意識するようになりました。
また、安い肉を食べるだけでなく、たまには「チバザビーフ」や「チバザポーク」等の銘柄を食べるようにしたいと思います。
千葉県だけでなく、日本全体の畜産業がもっと盛り上がるといいですね。
さて、家畜商免許は近いうちに申請したいと思います。
あとは法務局で営業保証金を供託して、県の農業事務所に申請すれば免許の交付を受けられます。
営業保証金とは、取引を巡って相手方が損害を被った際に営業補償金から損失補償を受けられるという制度。
ちなみに家畜商の営業保証金は2万円です。
宅建業も貸金業も最低1,000万円(!)供託しないと開業できないのに、めちゃくちゃ安いですね。
トラブルが起こって損害が2万円で納まるケースなんて、まず考えられないんですが…(笑)
家畜商免許は一度交付を受ければ廃業するまで有効です。
更新料等も不要なので、免許の維持に費用は掛かりません。
とりあえず講習を受けて免許を取っておけば損は無いと思います。
ひとつ注意しておきたいのは家畜商法第7条。
本条では「正当な事由がなくて引き続き一年以上家畜の取引をしないとき」は、「都道府県知事は、その免許を取り消し、又は期間を定めてその事業の停止を命ずることができる。」とあります。
これだけ読むと「家畜の取引を一年しなかったら免許を取り消されるの!?」と思ってしまいますが、講習での説明によれば実際は取り消されることはまずないとのこと。
ですので、「ペーパー家畜商」であっても免許は維持できようです。
なお、供託した営業保証金は廃業する際に返ってきますが、殆どの人は返還請求しないとのこと。
というのも、営業保証金を取り戻すには官報に「家畜商営業保証金取戻し公告」なるものを掲載しなければならず、2万円の営業保証金を取り戻す場合は約11,000円かかります。
掲載料は営業補償金額によって異なるものの、概ね6割は掲載料として取られてしまいます。
そのため、掲載依頼等の手間を考えると割に合わないと考え、返還を諦める人が多いらしいです。なるほど。
以上、家畜商講習の体験記でした。
受講を検討されている方にとって、何かの参考になれば幸いです。