木枯しの庭 | そういえば、昔は文学少女でした。

そういえば、昔は文学少女でした。

クリスマスと誕生日に一冊ずつねだった、「世界少女名作全集」。図書室の本を全部借りよう、と思ってた中学時代。なのに今では読書時間は減る一方。ブログに書けば、もっと読むかも、私。という気持ちで始めます。洋書から雑誌まで、硬軟とりまぜ読書日記。

曽野 綾子
木枯しの庭

母と暮らす40代の独身大学教授、公文剣一郎が主人公。ちょうど今テレビドラマで「結婚できない男」っていうのが話題になっていますが、昭和版のそれ、ということでしょうか。

でも全然笑えません。ひと言で表すなら後味の悪いものを食べちゃった感じ。木枯しというけれど、もっと何かねっとりした湿気があるように思いました。


この剣一郎、若い頃にアメリカ留学の経験があり、そのときにやはり日本から来ていた女子学生、東籬子(とりこ)と恋に落ちて、結婚の約束をします。ところが母の猛反対。もうそれはそれは彼女に会おうともしない激しい拒絶にあって、たったの数ヶ月で破局を迎えることになります。以来20年、いいなと思う女性ができると、お約束のように邪魔しにかかるお母さんのせいなのか、その邪魔に打ち勝てない自分の弱さなのか、独り身を続けている、というお話。


それも、はっきりモノを言い合うぶつかり合いならまだしも、にこやかに、優しげに、嘘をつき、駆け引きしあう母と息子の姿は、見ていてかなり不気味です。夫との仲が冷えた人妻だの、実は体が弱い体操選手だの、剣一郎の前にはいろいろと風変わりで魅力的な女性たちが現れるのですが、こっそり会いに行こうとするとお母さんの具合が悪くなる。極め付きは先に仕事で海外に出た恋人と、ハワイで密会を、と楽しみにしていたのに、お母さんが「気持ちが悪いの」と言い出して入院する騒ぎになり、やむなく渡航をあきらめる場面。微妙に数日間体調が戻らず、「もうハワイには絶対行けない(これ以上仕事も休めない)」頃になって、復活するお母さんなのです。「わざとなんじゃあ、ないだろうか」と疑う息子。でも、自分がそんな疑いを抱いていることを、母に悟られまいとまた仮面をかぶる。


こうした一連のエピソードに、同僚の子供が行方不明になる事件がからみ、なんとも重苦しい空気と、さわやかでない剣一郎の内面が、曽野綾子氏の達者な文章で綴られていきます。

ドラマ化するなら剣一郎は「中井貴一」さんでしょう。はまり役だ。見たくないけど。