深紅 | そういえば、昔は文学少女でした。

そういえば、昔は文学少女でした。

クリスマスと誕生日に一冊ずつねだった、「世界少女名作全集」。図書室の本を全部借りよう、と思ってた中学時代。なのに今では読書時間は減る一方。ブログに書けば、もっと読むかも、私。という気持ちで始めます。洋書から雑誌まで、硬軟とりまぜ読書日記。

野沢 尚
深紅

自ら命を絶ってしまった野沢尚氏の遺作。吉川英治文学新人賞受賞作。吉川英治?『宮本武蔵』の?なんかそれは違和感が・・・。野沢氏といえば、長くテレビの脚本を手がけていて、すごく現代的な作家という印象だったのに。あ、でも調べてみると、亡くなる前にNHKの大河ドラマ『坂の上の雲』を依頼されていたのだそうです。個人的には、その昔木村拓哉と中山美穂の共演で話題になった『眠れる森』や、『眠れない夜を抱いて』、最後のドラマになった『砦なき者』など、面白かったなあ、と思い出しますが、それはまあドラマなのでね。


この『深紅』も映画化され、内山理名、水川あさみの若い女優さん2人が共演しています。見てないけど。

題材は相当に深刻で残酷。小学生のときに両親と幼い弟2人を惨殺された少女が主人公です。たまたま修学旅行に行っていて自分ひとりが生き残ってしまう、という過酷な運命を背負って奏子は成長していきます。優しい親戚に大切に育てられ、大学生になった彼女には、ボーイフレンドもできて、一見どこにでもいる普通の女の子だったけれど、心の奥底で閉ざした扉のことを、奏子は常にどこかで意識して、「普通の女の子」を演じているだけ。長じるにつれていろいろなことがわかってきます。会社を経営していた父が恨まれていたこと、その恨みの巻き添えを食って、母や弟たちまでが殺されたこと。そこまで残虐な犯行に及ぶほど、追い詰められていた殺人者の事情。そして、奏子は、死刑判決が下った犯人に、自分と同い年の娘がいることを知り、素性を隠して彼女に近づいていきます。

未歩もまた、「殺人犯の娘」という十字架によって、苦しい日々を送っています。若くして結婚した相手からは手ひどく暴力を振るわれ、命の危険を感じるまでになっていました。奏子は、そんな未歩と表面では友達になろうとしながら、内側では深紅の扉を開いて、復讐と憎悪の炎を燃え上がらせます。そして物語は、意外な方向へ。


一歩間違うとこれはものすごい「情念の物語」になってしまうところですが、ここまで究極の舞台設定を得ながら、どこか爽やかな清涼感を奏子と未歩に与えているのが、野沢氏の力量なのではないでしょうか。

彼の作品では女性が主人公のものが結構あって、全部を読んだわけではないけど、ヒロインが変に「女オンナしていない」ところが私は気に入っています。オンナである前に「人間」として描いているというべきか。でも彼女たちはちゃんと女性としても魅力的で、野沢さんの持つ「繊細さ」が、そういう作品を生んできたのかも知れません。そしてその繊細さこそが、彼の「生きる力」を奪ったのかもしれない。惜しいな。

あらためて、ご冥福をお祈りします。