第4話 おれの名前・後編
長石組後編の第四話で忘れられない思い出といえば、やはり船を使った撮影…使われたシーンとしては僅かなものでしたが、チーム菊池クリーニングがストーリーの中で船で東京に向かったように我々撮影クルーも実際に船での移動となりました。出発した九州の港の名前は忘れてしまいましたが、乗船は20時くらいだったと記憶しております。その日は夕刻から雨が降り始め海にも波が立っていました。嫌な予感は乗船と共に現実のものとして我が身を襲います。まだ碇泊中だというのに足がふらつくほどの揺れを起こす船内。連日の撮影、寝不足から三半規管も疲労を起こしていたせいか乗船数分で既に吐き気が…これは僕ばかりではなく皆そうでありました。出航すれば幾分揺れも変わるか?と期待していましたが、当たり前ながら揺れは増すばかり。対策法としてとりあえず地べたに寝そべってしまえば脳で感じるヨーイングを最小限に殺せると判断し早々に布団を敷きました。その判断と睡眠不足が功を奏したのか気がつけば寝入ってしまっていて、目が覚めた明け方には揺れに幾分の耐性がついていることに気づきました。それでも相変わらず荒れた波模様で歩行には困難を極めます。当初、8時開始予定だった撮影も天候不良とあまりの揺れの強さから開始時刻を二時間遅らす判断が下りました。その間、支度部屋で共演者と顔を合わすのですが、人間の顔色とはこんなにも青くなれるのか!という程に皆、顔面蒼白で…笑。とくに芳賀さんは相当に辛い一夜を過ごされた感が滲み出ていて、話かけるのも気の毒な程でしたね…。
待てど待てど揺れと風はおさまらず、やむを得ず強行撮影された甲板でのシーン。本来であればこれから始まる新しい仲間とのスタートを表す穏やかなワンシーンのはずが、ご覧の通り髪は吹き乱れ、声はマイクに風音が入ってしまうためオールアフターレコーディングとなっています。そのせいか後日東映のスタジオで録音したセリフの掛け合いの温度が全く画の険しさと釣り合いがとれていません笑。今であればあの現場を思い出し、ある程度逆算した芝居をするはずですが、なにぶんアフレコ経験も未熟だったためそこまで気が回っていない様子が今見ると恥ずかしいシーンの一つです。
東京湾が近づくころには波もおさまり、あれは横浜辺りだったのでしょうか、陸地の夜景が見えた時、それはまさに'希望の光'でありました。

四話も改めて見返してみるといくつか後のストーリーへの伏線的な台詞や描写があることに気づきます。しかもその言葉が味方であるはずの真理や啓太郎の口から表現されていることが巧役の僕にとっては今更ながらギクリとくるところがあります。

真理「まだ'人間'の心が残ってるみたいね」

啓太郎「クシュン!」




……。





あの二人、無意識ながら勘が鋭いご様子で…







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つづく。







半田より。