昨日凄く状態の良いモズライトを弾いた。



'状態が良い'とは普通のギターの場合はコンディションの善し悪しそのものをさすのだが、モズライトの話となる少々違った意味を伴う。



モズライトを有名にしたのは言わずと知れたザ・ベンチャーズであるが、ある世代からの絶大な支持によりモズライトギターも神格化されて来た。

モズライトギターの話をうかつに語ると「トーシロは黙ってろ!」と言った言葉すら飛んできかねないくらいディープな世界なのだ。



故にともすれば'色々な意味でめんどうなギター'という印象を持っている人も少なくないだろう。





ベンチャーズへの傾倒に熱が入り、メンバー本人たちと極力同等の仕様のギターを手にしたいという気持ちは理解できる心理である。と、同時になるべくなら良い音で弾きやすいコンディションへ調整したいのもプレイヤーの心理だろう。


こう言った思いがビンテージモズライト市場にもたらした現象が、パーツのコンポーネントであった。

数本のモズライトから良いパーツを抜き取り'最高の一本'に形成するのである。



不思議なことはモズライトギター以外ではこのような風潮は少ない。



不良パーツが出たならそこだけを適切なパーツと交換するのがベター。決して究極の一本の為に複数本を買って余剰となった'残骸'をまた売却するような使い方はしない。



この風潮により世の中、とかく日本国内で出回っているモズライトビンテージはほとんどがオリジナルパーツでないものが売られていると言う。




話を戻そう。ここで書き出しの'状態の良いモズライト'の説明がようやくついたかと思う。



アメリカ買い付けによるフルオリジナルパーツ、加えて極めて消耗の少ない美品ビンテージであった。



知り合いのギターショップであったこともあり、相当長い時間試し弾きをさせて頂いた。そこで何を調べていたかと言うと、現在も復刻品として製造が続いている新品モズライトの再現度を探っていた。なんとも嫌らしい客であるが…



現行品にもいくつかメーカーがあり一概には言えないが、印象としては'それぞれに良いところがある'といったところか。



ビンテージ65年後期の幅の狭いネックはフレーズにより弦落ちを起こすが現行品にはそれがない。しかしマイクはやはりオリジナルの方が'あの音'すると言ったように。






現代におけるモズライトユーザーの9割はベンチャーズの為にこのギターを持つ。


モズライトを構えただけで音を出す前から音楽性を勘繰られてしまうことは少し残念な気持ちだが、それは歴史がもたらした事実として受け入れなければいけない事なのかもしれない。




このことに何故違和感を覚えるかと言うのは、他ならぬ僕自身がベンチャーズをただの一回も弾いたこともないがモズライトファンであるからである。




ベンチャーズはレコードやCDすら一枚も持っていない。(川口真先生編曲によりベンチャーズ歌謡は別)




僕にとってモズライトとはスタジオミュージシャンである金成良悟さんへの憧れ意外の要素はない。幾多の歌謡曲で残された金成さんのモズライトによるギタートーンがとにかく好きだから。


あの音は金成さんの腕前は大前提でありながら、やはりモズライトが相応しい。後年ギブソンSGに持ち替えられてからのトーンは少しニュアンスが違ってくる。




金成トーンのポイントはマイクはセンターミックスorフロントを使う。リア一発使いをしないところもベンチャーズとは対極であろう。

そして最大の特徴はカッティング以外、全てのフレーズにアームがかかっているところだ。



最初このトーンを聴いた時、あまりの正確なビブラート周期に絶対アタッチメントを使用しているのだろうと思い込んでいたが、1960年代にはそのようなことが可能なアタッチメントは開発されていなかった。(シンエイのユニバイブは近いがまたニュアンスが違った)


だからトレモロアームが必需品で、なかでもモズライトのバイブラミュートがまさにそれである。



金成さんがモズライトを使用した経緯には、金成さんの先輩であったギタリスト神谷さんが関係してくるのだが、話がいよいよ底なし沼になりそうなのでここでは割愛しよう。




ここに書いた話を読んで頂き金成トーンに興味を持って頂けたなら是非、布施明さんの「愛の園」のイントロとオブリガードを聴いてほしい。もちろん昭和43年発売のオリジナル盤を。




その音は日本人による日本人しか出せないギタートーンだと確信して頂けるはずだ。




(左から全音、ファーストマン、黒雲とどれもコピー品でまだオリジナルは所有に至っていないがそれぞれの良さがありさほど不満は感じていない)



モズライトギターにはヘッドに'ザ・ベンチャーズ'のロゴが最初から入っているが、僕みたいなユーザーからしたら「金成!」ロゴモデルが欲しいものだ。






半田より。