今まで何着の服を買ってきただろう。
自分で選ぶようになってから
買うか悩んだり
無理して買ったり
買ったものの一度も着なかったり。
いろいろな体験をしてきた。
ただ、買わなかったことを後悔して
それを今だに覚えているのは
後にも先にも、あの一着だけ。
UNTITLEDの黒いスタンドカラーのコート。
シンプルで、何の変哲もないコートだったけど
私は毎日それを眺め、買うか悩み、
試着もできないままお別れしてしまった。
２０年以上も前のことなのに
未だに、あの店の入り口に飾られていたコートのことを鮮明に思い出せるから不思議だ。
大学４年生。
卒業を控えた冬だった。
新百合丘の駅のビブレの中にその店はあった。
一目惚れ。
服に対して、うっとりするという感覚を初めて感じた瞬間だった。
すぐに値段を確認する。
５万円。
当時の私には手が届かなかった。
これから卒業旅行にもいくし
社会人になるのに、引っ越しもある。
お金も必要。
高いコートは我慢しないと・・・
駅近くだったので、毎日のように店の前を通り
売れていないかを確認した。
本当に素敵だった。
セールになれば・・・
と淡い期待もしていたが、値段は変わらなかった。
そして、いつの間にか売り場は春向けに変わっていった。
コートがなくなった時、とても大切なものを失ってしまったような感覚に襲われた。
あれは、無理をしてでも買うべきコートだった。
それから数年、冬が来るたびにあのコートのことを思った。
似たようなコートはたくさんある。
でも、あのコートほど心を奪われるものに出会えない。
手に入らなかったものは美化してしまうものなんだけどね。
月日が経ち、ここ何年は忘れていたと思うが
「アンタイトル」という言葉を聞くと
真っ先にコートのことを思い出していた。
先日、トレンチコートを探していて、
その流れで偶然目に飛び込んできたのが
アンタイトルのコートだった。
フードのついた、ミディアム丈のコート。
信じられないほどお安い。
失敗してもいいや、で買ってみた。
石川というか、雪国、車社会で暮らしてみてわかったのは、ロング丈のコートはほぼ着ないということ。
車に乗り降りしやすいミディアム、ショート丈が重宝する。
届いたコートは、とってもきれい！
ラッキー！
羽織りやすく、暖かい。
着やすくて届いてから毎日のように着ている。
アンタイトルのコートへの叶わなかった２０年の淡い思いが成仏していくようだった。
そういえば、中古の服は運気が下がるという情報をインプットしてから、全く、中古の服は買わなくなっていた。
それって本当なんだろうか？
それを発信していた人にとっては本当なんだと思うけど。
でも、届いたおさがりのコートは
運気を下げるどころか、毎日私を幸せにしてくれる。
買ってよかった！
と着るたびに思えるほうが、よっぽど運気アップじゃないか。
実は、中古の服でもいいんじゃない？
と思ったのは、こちらのフランス人マダムの動画を見てから。
おしゃれなフランスマダムたちが、
「蚤の市で安く買ったのよ。」
「これなんて２６０円！」
とルンルンでファッションショーをしているシーンを見た時
とってもハッピーな気分になったのだ。
『今まで古着は絶対ダメ！って思っていたのは、なんでだっけ？』
と考えてしまった。
本で読んだか、動画で見たか、どっかの誰かが言ってただけだ。
真理じゃない。そういう説もある、ということの一つでしかない。
その話を友達にしたら
「私もそう！昔は古着好きだったのに、運気下がるって聞いてから買わなくなってた。」
同じ呪縛にかかってる人、結構いるかも。
どっちでもいい。
絶対に誰かの着たものなんて嫌、と思うなら
それでいいと思う。
洗えば一緒、おさがりもあり、と思えば
それでいいんだと思う。
私の場合は、５万円よりずっとお安く
素敵なコートが手に入ってご機嫌だ。
新品とか中古とか、物がどうとかより
自分がどうなのか。
自分がご機嫌でいられることのほうが重要。
それが最高の開運だと思うんだけど
どうだろう？
だって、新品でも「こんな安いのしか買えないなんて」と思ってたり、
「こうすれば絶対開運するんだよね？」と眉間にシワ寄せてイライラしてたら…
運気アップの予感がしない。
コートの話が、もう一つあるのだけど。
それはまたいつか。
wai