そこは、私にとっては僻地だった



夫が「一度は田舎暮らしをしてみたい」と言い

臨月の妻の懇願を無視して決めた、転勤先の会社から離れた過疎地



みんな口を揃えて言った


「なんでここを選んだの?」


………






里帰り出産をしないので、産後は全部一人でやった



実母はコミュニケーションに難あり、孫より宗教活動が大事という変わった人


夫は義母を呼びたい!!と強く推してきたけどそれは私がきつい



遠方だったので数える程しか会ったことないけどよく喋る人



間に入ってくれる夫はほぼ不在



私は別に人見知りではなく割と誰とでも仲良くやっていける方だし、義母はいい人だったけど、産後のボロボロの時期にほぼ知らない人がずーーーっと滞在し、話しかけられるというのは考えただけで疲れた



私が気を遣う性格じゃなかったらよかったかもしれないし、夫にしてみれば「うちのお母さんが来てくれるって言うの断るんだから自分でやれよ」ってところもあったかもしれない



何度もその話をして、夫は「わかった、母は呼ばない」と話していたのに


出産の退院時

お義母さんが大荷物でやって来られたので

ポーンポーンポーン

一泊してもらい、私が頭を下げて帰っていただくことになった



彼はいつもそうだった


「大丈夫、君の思う通りにするよ」


そう言って私を黙らせ、

でも私の意見は全てなかったことにする


私は毎回、あ然無気力



「話が違う」と抗議しても、過ぎたこと

私の言い分が次の機会に生かされるわけでもない


「ごめーん、今回だけほんわか


そんな事を呆れるほど繰り返し、

数年後には

何百万も借金作って帰ってくる



とにかく、その場しのぎで何でも

「いいよーいいよー」「わかったわかった」と言うので議論もできなかった




そんな調子で


痛む体を引きずって

産まれたての赤子の世話を1人でこなしながら


「来月には早く帰る」「半年後には転勤だか らもうちょっとがまんして」と言われ続けた


もちろんいつになっても帰りは遅いし、転勤するまで結局7年かかった




別に夫じゃなくても頼りになるものがあればよかったけれど


それが、僻地では叶わなかった



宅配サービスの類は全てエリア外


その頃のUberも、ネットスーパーも、お弁当なども全部当たっては、まさかの【エリア外】の文字を見る度に絶望的な気持ちになった



過疎地で人は少ない


近所のおばさん達は挨拶くらいしたけど話しても「絡まれる」感覚で一方的に喋られるだけ



周りは空き地


夜は、過剰表現ではなく、ほんとに真っ暗


子どもが泣いていて夜風に当たりたくても怖くて出られない



遠くの海がよく見えるくらいなので

家の前は急坂


下るとすぐ柵のない川


ベビーカーで出かけるのは危険で


使うことなく処分することになった



最寄りのコンビニまで徒歩30分


赤ちゃんを抱いて気分転換に行くには遠い



徒歩圏内にあるのは田畑と知らない人の家だけ


そういうのどかな暮らしが好きな人もいると思う


でも私は家にいるのが苦手だった



ショッピングモールまでは車で片道50分


娯楽が何もない


なにもは言い過ぎかな、海はありました

でも、必要なものは何もないという体感でした



子どもを連れて行けるご飯屋さんも隣町

(田舎だから?その、隣がめっっっちゃ遠い)



何度も、近所にイオンモールができる夢を見た



小児科もその土地にはなく、

遠い病院まで行く途中

ベビーシートで泣きすぎて吐く体調不良の乳児をバックミラーで見ては私も泣いたし

これが一番辛かった



とにかく、どこに行くのも遠い



子育ては田舎がいいなんて誰が言ったの?

とよく思った



あまりの孤独に耐えかね、長男が生後5ヶ月のときに派遣で銀行に入った



初めての銀行業務


初めての営業


初めての土地で古〜い紙の地図をもたされて

初めての原付バイク



田んぼの真ん中で

自分がどっちを向いているのかもわからず

役に立たない紙の地図を1人でクルクル回していた



選ぶほどの仕事もなかったけど


その頃児童センターが建って、居場所ができ

友達も増えた



もともと、どこに行ってもやっていける自信はあった


外での人間関係はどうとでもなったけど

住環境と、全く話の通じない夫との関係が毎日きつかった



そして、夫は転勤族

賃貸物件は夫の会社名義で契約する



「次住むところはヒスイちゃんが選んでいいよ〜」とお気楽に言っていたけれど、

「決めてきちゃった〜」と夫に言われる将来が見えた



私は完全に舐められていた








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