ボーッ ボーッ
工場の中に入るには、この風の吹く空間を通らなくてはならない。白衣についたほこりを落とすためだ。
それから、ビニールの手袋越しに消毒をして、今日も業務開始。
何千個の饅頭が鉄でできた網のコンベアーの上をゆっくりと流れてくる。時間をかけて冷却されているのだ。その星の数ほどある饅頭をながめながら、自分の持ち場に入る。
お昼休みも終わって数時間後の夕方。おばさんと向かい合って、箱の中の饅頭に粉をつけて、こねている。
「もうそろそろ、いいわよ?5時でしょ?」
「はい、お先に失礼します」
この後、私には居酒屋での仕事が待っているのだ。
表参道につくと、今度は大学生や、自分と同世代の若者の大勢居る職場である。
時々芸能人も来る、人気の店。料理もおいしいし、店長も優しい。だけど、私はこの店が嫌いだった。
大学生を除くと、そのほかは10代で田舎から出てきたニートの子達。自分達が長く働いていることを鼻にかけ、えばっている。
ちょっとでもキツイ言い方をされると、目に涙がたまったり、嫌になってしまうガラスの神経の持ち主の私には、そういう奴等が嫌だった。
この店に入るときの研修で目立ってしまった私は、社員の間で評判が良かった。
それもムカついていたのだろう。ちょこちょこいじめられて、嫌だった。
生まれて始めて、明け方まで働くバイトだった。
制服の作務衣は酒や料理の染みでぐちゃぐちゃだ。
閉店後のパントリーの掃除で、水を使ったり、重いゴミをすてに行ったり、よくやった。
ある日の事だ。
私はドリンクを作っていた。
そこへ、レジもやっている女の子が、ドリンクを注文した。私はそれを快諾し、作業にかかった。
その時、その子がカウンターにさわった反動で、小さな振動が起き、
上においてあったお猪口が落ちて、割れた。
ちょっと遠くにいた私は、あ~、落ちたのか。・・・よくあることに気にとめないで居ると、
「あのさぁ~ 吉田さんさぁ~ あやまろうよ!!」
と、私より何歳か年下の大学生のヒロシ君が怒鳴ってきた。
は?なんなの?私?何もしてないよ。 当時の私は、とっさに言い返せなかった。
もともと、口げんかが得意でない人は、たいていは静止だろう。トイレで泣いた。
その後、私はその男子と話した。
「あのね、ひろし君ね、わたし、あの言葉に泣いちゃったのよ」
その男の子は謝ってくれたが、
「でもね、俺達、店長に、新人さんには厳しくするように言われてんだよ」と言ったのだ。
何て言い返したか、覚えていない。たぶん、私は何もいえなかったと思う。口げんかは得意じゃないのだ。
だけど、今は声を大にして、こう言い返す。
正しいことを教えることと、イジワルすることは違うことなのだ!!
日本でのバイトは、つくづくついていなかった。いや、私の半生自体、ついていなかった。
何も悪くないのに、何故いじめられなくてはならない?バイトはトラウマになった。
大学4年の時、手相を見てくれた、ある方は私に言った。
「しばらくは苦労の連続です。友達に裏切られたり、色々な小さな障害があります」。
おっさんの言ったことは当たっていた。