大分地裁は10日、女性が知らない間に敗訴し、預金を差し押さえられた問題で、差し押さえた男性に損害賠償を求めた訴訟でその賠償請求を認めた。男性が女性にについて虚偽の住所を報告し、差し押さえ命令を得たと判断したものだ。司法機関が虚偽事実に基づき、個人の預金を差し押さえるという、これまた前代未聞の事象である。

 

 報道によると、男性は大阪市在住の30代。判決などから、女性の経営する飲食店で2018年6月から7月頃に勤務していた。2019年6月に、経営者である女性に解雇予告手当などを求め簡易裁判所に提訴した。訴状には、虚偽の女性の住所を記載し、「店は既に営業していない」などと虚偽の報告をしていた。

 

 女性の住所は虚偽であったため、裁判所からの書類は届かず、提訴されたことする知らなかったという。反論も上訴のすることもなく、約68万円の支払いを命じる判決が確定してしまった。男性はこの判決に基づき、約30万円の女性の預金を差し押さえる結果となった。その際に、女性あてに郵送された裁判所からの書類は、何者かが被告の住所地で受け取っていたという。

 

 男性は実際には、店の金銭が合わないことを経営者である女性に追及され自主退職しており、解雇予告手当は発生しない状況にあった。結局、裁判所は、原告の男性にまんまとだまされ、女性に解雇予告手当の支払いを命じたうえで、預金の差し押さえまで認容してしまった。男性は、「付郵便送達」という制度を逆手にとり、女性に裁判関連の書類が届かないようにしていたという。

 

 「付郵便送達」とは、書留郵便で名宛人に発送し、発送したときに送達が完了したとみなす方法である。この方法では、名宛人が実際に受け取るか受け取らないかは無関係に、送達が完了する。「付郵便送達」が採用されるには、送達先に名宛人が実際に所在していることを調査して、裁判所にこれを書面で報告して、付郵便送達の方法によることを申し出る。調査の方法は、表札の有無、郵便受け及び電気ガスメーターの状況等の確認や近隣住人の方に対する聴き取り等で行われる。本件では、「電気や水道のメーターが動いていた」などと虚偽の報告を簡易裁判所に提出し、これが認められた。それで、女性不在の裁判が行われ確定したものだ。

 

 それにしても、裁判所もチェックをできなかったのだろうか?男性の虚偽報告もなかなか巧妙であるし、この手口を知って実行しているように思える。女性は簡易裁判所に異議申し立ての訴えをしているとのこと。男性側は、なんと、争う姿勢を示しているとの報道である。男性には余罪もありそうで、今後の動向が注目される。