太子のその先の袋田に大きなニジマスの生け簀があり、夏はキャンプファイアーと生け簀のニジマス釣りで賑わっていた。釣り屋さんが一本1000円位で1日釣り竿を貸してくれ生け簀はお客さんの釣り竿でびっしり、赤青の浮きが並んでまるで交通渋滞だった。ニジマスはお客さんの手によって次々と黒い土に上げられ、併設の料亭で、すぐさま塩焼きにしてくれる。30センチから40センチ、たまに60センチ位の大物を釣る者、生け簀の四角い何箱も定規のように並んだ水枡には、底が見えないくらいニジマスで満員一杯だった。釣り竿を下げるより手で掬った方が、早いねと笑いが途絶えなかった。




料亭のニジマスはおいしかった。粗塩をかけてがぶりつく。ニジマスは養殖魚だというが、魚肉はやや白淡くふっくらして美味しい。両手で支えないと空へ泳いで泳いで飛んで行ってしまうような大きさだ。釣り竿にかかった時も、釣り竿が大きく天にのけ反り、気を付けないと、身体が、生け簀に持っていかれる。ドボーン、生け簀に落ちてしまう。生け簀に落ち天を見上げるときの気持ちは清々しいのだか、水でびっしょり、せっかくのニジマスピクニックスタイルが、水のろだらけ。子供のニジマスが衣服の中に入ってでもいようものなら、ぬるぬる気持ち悪い。




ニジマス釣りに先日も出かけようかと思った。1人孤独にコロナ禍後の森林浴、新鮮なニジマスに触れてみたかったのである。しかしベンツを飛ばして、生け簀に着いたが誰も居なく閑散として、渓流から生け簀の水流だけがゴウゴウと轟いていた。後で聞いた話では、生け簀の主が麻雀賭博で破産、夜逃げしたという。ニジマスは居なく、生け簀は空であった。実際あったニジマスの話しです。