虹の約束♪ -2ページ目

虹の約束♪

「いつも喜んでいなさい・・・」

・・・

光はパピルスの茂みの中で消えた。

 

アルは突然朦朧とした意識が戻ったように、自分がどこにいるのかを確認した。

 

そのときだった。

眼の前に、人間の輪郭が、闇夜のナイル川辺に立った。

眼を凝らすとそれは男性のようだ。

 

 

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月光は男性の背後の照らしているので、影となり顔は判別できない。

ただ背丈が高く、威厳を感じさせる何かが感じられた。

不思議に恐怖はない。男性もアルを観察しているようだった。

 

風が二人の間を走っていった。パピルスが揺れた。

 

相手は、はっきりと月と光に照らされたアルの顔を見ているはずだった。

アルは男性を真っすぐ見つめた。

 

「あなたの名前はなんと言う?」男性が声をかけた。

 

それは低い声が湖の清流のように澄んでいて、通る声だった。

 

アルは躊躇せず答える。「アルと言います」

 

「アル。良い名だ」

 

アルの背筋に電流が流れた。身体中がしびれる感覚だった。

 

「アル」と自分の名前を呼ばれたとき、その声に聞き覚えがあった。

まるでそっくりだったのだ。

 

幼い頃父親がよく、そんな優しい声で自分を呼んでくれていた。

その頃の記憶が甦る。全身が震えた。

 

「アル、また会おう。今夜は良い夜だ」

男性はそう言うと身体を翻した。

 

闇夜に映し出された男性の輪郭は茂みへと消えた。

 

 

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アルは月を仰いだ。涙が溢れる。涙で滲んだ月光はより美しかった。

自分を産んでくれた人が恋しかった。こんな気持ちは初めてだった。

 

憎んでいたはずなのに、怨んでいたはずなのに、今はすごく会いたい。

死ぬ前にもう一度会って、伝えたかった。今は素直にそう思える。

 

アルは声に出して言ってみた。

 

「私を産んでくれてありがとう。私は生まれてきて幸せだったよ」

 

この声が届くといいのにと、アルは思った。

 

 

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もう迷いはない。

憑き物が落ちたように、頭の中がはっきりとしていた。

 

自分は誰よりも親不孝をしてしまった。

もう取り返しがつかないのはわかっている。

 

もはや親孝行はできぬとも、ここでの自分の使命を果たそうと決心する。

 

川は流れている。

流れた水は元には戻れない。

 

 

 

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それなら・・・

 

 

 

 

「パピルスの詩」

 

 

 

・・・

 

しかしアルには迷いが生まれていた。

 

恐れていたことが現実になったのだ。

それはラーモセから結婚を申し込まれたときからだった。

 

幸せになりたいという究極的な願望だ。

人間の本能とでも言おうか。

この世に未練が芽生え始めた。

 

 

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魂の救いよりも、肉体への執着だった。

 

ラーモセと夫婦になり、子供を産み、育てたい。

もっとラーモセと一緒に過ごしたい。

彼の温かい腕の中で愛されていたいという思いが強まっていった。

それは消すことのできない強烈な力だった。

 

最後までそれに抵抗できる自信が崩れてきた。

 

 

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どうしたらいいのか途方に暮れ、手が震えた。

二日後には決断が迫られる。

 

アルは深い淵に落とされ、誰にも打ち明けることができず、崖っぷちの選択を余儀なくされた。

 

その夜は全く眠れず、床の上で悶えた。

ふいと浅い眠りに落ちたと思ったら、以前パピルスの茂みで会った、あの老婆が夢な中に現れた。

アルは走り寄って老婆に言った。

 

「どうしたらいいんですか?もう私には無理です。

使命なんかどうだっていい。自分のために、友達が死んでしまったら何の意味もない。

このまま私を死なせてください」

 

 

 

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老婆は深刻な顔をしていたが、その眼は清らかで深く優しかった。

 

「恐れてはいけません。退いてはならないのです。

あなたの友達は死にません。安心しなさい。

誰も傷付くことはないから、あなたは勇気を出して従いなさい。

あなたをここへ運んだ力は偉大な力です。命の源です。

その力を信じなさい。その力があなた方を命へと導いてくれます。

もう一度言います。従いなさい。その使命を果たしなさい」

 

老婆の姿は消え、アルは眠りから覚めた。

 

途端に眼の前に、あの青い光が現れ、まるで道案内するように動き出した。

 

さながらアルは夢の中を行くように、その光に従った。

 

 

 

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「パピルスの詩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

「ラーモセ、黙っていないでなんとか言いなさいよ。このままアルを残していいの?」

 

ラーモセは笑顔を作り、おもむろに言った。

 

「俺も残る。決めたんだ、もう何も言うな」

 

 

 

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エセとサブは事態が用意に信じられないという顔を見せた。

しばらく口も利けない。

 

「待て、二人して何を言っている?」

 

サブの声はどこにも届かず、空しく跳ね返ったこだまのように心に反響した。

ラーモセとアルの決意が固いのは、その顔でわかった。

 

「混乱してすぐには飲み込めないんだろう。事態がまるでわかっていない」

 

サブは足踏みして悔しがるように言った。しかし、二人の反応は依然と変わらない。

 

「わかった。明後日にまた来る。それまでに返事を聞かせろ。それが限界だ。

いいか、言っておくが捕まれば死刑にだってなるんだ」

 

吐き捨てるように言うと、サブは立ち上がった。

エセも承諾しかねるといった顔はしていたが、黙ってサブに従い帰って行った。

 

 

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アルはラーモセに食ってかかった。

 

「なんでサブと一緒に行かないのよ?

私がそんなこと望むとでも思っているなら大間違いよ。

今わかった。私にはラーモセの気持ちが重荷だって。

言ったはずだわ。私たちは所詮永遠に一緒にはいられないのよ。

私の決断でラーモセが死んでしまったら、私には耐えられない。

だから私のすることに干渉しないで。もう放っておいて。

それが今の、私の一番の望みよ。私を自由にして。

ここで私たち別れましょう。ここからは私一人で行くわ」

 

ラーモセは空を見据えて言った。

 

「お前がここに残るって言い出すことはわかっていた。

それはお前がここに来た理由があるからだろう。

そしてお前はその使命を果たしたい。

そうしなければ、お前の魂は永遠に救われず、さ迷い地獄へ行く。

そう、この前お前が俺に言った。そのときに俺は決めていたんだ。

何があろうともお前から離れないって。

お前の魂が安らぐように、俺は全力で尽くそうって。

俺は死ぬことは少しも怖くない」

 

 

 

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アルの眼にみるみる涙が滲んだ。

 

「だから重荷だって言ったでしょう。

前にも約束したよね、私より先に死なないって。忘れたの?

お願いだからあの約束守ってよ」

 

ラーモセは優しくアルを見た。

 

「仮に俺がお前から離れて、生き延びたとして、お前を失った俺は幸せだと思うのか?

生きていけるとでも?俺はお前と出会ってしまった。もうあきらめろ、俺はお前と離れない。

たとえそこが地獄でも。俺はこういう生き方しかできないんだ。それでお前の心の重荷になろうとも。

でもわかってくれとは言わない。俺を憎みたかったら憎め。逃げたければ逃げてもいい。

けれど俺は必ず追いかける。仕方ないんだ、俺がそうしたいから」

 

 

 

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アルは泣き出した。

 

「なんでそんなにバカなのよ。もっと楽に生きたらいいのに。まだ十七歳じゃない?

なんでそんなに死に急ぐのよ。もっと生きてよ、私の分も。

他の誰かと家族をたくさん作って、幸せになってよ。

今までだってラーモセは、充分苦しんだじゃない?

お母さんを亡くし、独りぼっちで一生懸命生きてきた。これからは幸せになるべきよ。

ラーモセには幸せになる権利があるのよ、それを放棄しないで。

だから私のことはもうあきらめて」

 

 

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「嫌だ。あきらめたくない。お前と出会って俺は幸せだったから。

心配するな、まだ死ぬとは決まっていない。結婚しようって言ったのは、本気だ。

俺は勝手にもう決めたんだ」

 

ラーモセはアルの涙を拭った。

 

「こんな日が来るのが怖かった。私がラーモセを苦しめてしまうことが。

絶対そんなことしたくなかったのに。

それよりももっと怖いのは、自分が弱くなってしまいこと。

ラーモセに甘えて、寄りかかってしまうことが。

だから優しくなんかしないで。私の意思が砕かれてしまう。

もう逃げたくないの、自分の感情に流されたくない。

ラーモセの側にいると、勇気がなくなっちゃう。

だから一人になりたい。お願い、一人でいかせて」

 

 

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ラーモセは澄んだ瞳でアルに言う。

 

「お前はお前の信じた道を行け。俺なんか気にするな。

そういうお前だから俺は好きになった。俺はお前の行く道を邪魔しない。

ただ後ろで支えていただけだ。振り返るな、前だけを見ていろ。

恐れるな、後ろに必ず俺がいる」

 

「やっぱりバカだよ。

そんなこと言う人間は、ラーモセくらいだよ。普通じゃない」

 

「俺がバカなら、お前も相当なバカだろう。他人のこと言えた義理かよ。お互い様だ」

 

二人は初めて笑った。

 

しかし・・・・

 

 

 

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「パピルスの詩」

 

 

 

 

 

 And all things go to one place: of earth they were made, and into earth they return together.

 

~ Ecclesiastes 3:20 ~

 

 

 

 

 

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みな同じ所に行く。

すべてのものはちりから出て、すべてのものはちりに帰る。

 

~ 伝道の書 3:20 ~

 

 

 

 

 

 

 

 

God Bless You 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルは急いで思考を回転させていた。

 

・・・

 

「そんな冷静でいいのかよ?  これはちょっと厄介だぞ」

 

「流れ者が?なんの噂を流したのよ?」

 

エセは理解できないと言ったように尋ねる。

ラーモセとアルは黙っていた。

 

「アルが魔女だって噂だ。というより、異国人の預言者だとか様々な憶測が流れていて、

とにかく巷では恐ろしい悪魔と信じている者までいるらしい。

そんな迷信くさいくだらない噂を信じるなんて本当にバカな奴らだ」

 

 

 

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エセがすかさずサブに皮肉を言う。「ついこの間、バカな一人だったじゃない」

 

サブは仏頂面で言い訳する。

「俺がいつそんな、言いがかりはよせよ。今はそんなことを言っている場合かよ」

 

「探してヨセフはどうするつもりなのかな」エセは心配そうに言った。

 

「さあな。捕まえて死刑にでもするんじゃないか。

ラーモセにしろ、剣術の腕が立つという噂は聞きつけているはずだからな。

飢饉がひどくなっているし、治安確保のために、討伐軍を派遣するつもりなんだろう」

 

サブの伝聞的な言い回しにエセが眼を見張り、半身を椅子の上で斜めに構えた。

 

「急いで逃げないと。大変だわ」

 

 

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「面目ない。俺のせいだ。許してくれ」サブがラーモセとアルに低頭した。

 

「俺がラーモセをアケトの入れたから。それにアルも。

謝ってすむ問題じゃないのはわかっている。だけど本当にすまない」

 

「止めて、頭を上げて。誰が悪いわけでもないと思うの。

それに、あのとき、私が勝手にあそこへ行ったんだもの。

サブのせいではないよ、こうなったのは仕方ないことだわ」

 

「俺を責めないのか?」サブは眼を上げて訊いた。

 

「責めるなんて。とんでもない」

 

サブは神妙に顔で言った。

「俺はお前らに怨まれていると思っていた。二人の間を散々邪魔したからな。

でも今わかった。ラーモセがアルに惚れたわけを」

 

エセはラーモセとアルを交互に見た。

 

ラーモセは途端に顔を赤らめ、声を飛ばした。

「誰が惚れただなんて言った?勝手に決め付けるなよ。俺は、ただ・・・・・・」

 

「お前、顔が真っ赤だぞ。嘘をつくとすぐに顔が赤くなる。今さら俺らに隠すなよ」

 

「とにかく今は、これからどうするか急いで決めないと。もたもたしていられないわ」

 

エセが冷静に言う。

 

 

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「ヨセフは騎馬隊から行かせ、すでに二艘の王の船でナイル川を出発したと聞いた。

エセの言う通り、急がないと大変だ。ここを今夜中に出よう。早く荷物をまとめろ」

 

アルは考えた末に決断した。

「私はここに残る」

 

サブとエセは顔をしかめた。

 

「私はここに残りたい。みんなは逃げて」

 

サブは詰問する口調で言う。「なんの意味がある?死にたいのか?」

 

「そうよ。アル、何考えているの?」エセも上ずった声で咎めた。

 

「ごめんなさい、でもそうしたいの」

 

・・・

 

 

 

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「パピルスの詩」