妊娠

 

結婚前、千恵は主治医に「抗がん剤の影響で出産は難しい」と告げられていた。

新婚旅行先のカナダから日本に戻ると、千恵から信じられない報告があった。

 

「おなかにいるみたい」

 

2002年6月22日朝、千恵が妊娠していることが分かった。

2カ月前、カナダに出発する際には生理が戻っていた。

 

主治医は驚きながらも「あなたは若いからね。機能が止まっていた卵巣の細胞が復元したんだろう」と説明した。

 

抗がん剤治療を終えて、1年3カ月が過ぎていた。


(続く)


北九州市立医療センターで抗がん剤治療中の千恵。1クール3回点滴のサイクルを8クール行った。2クール目に入ると副作用が出始めた。胃液が出尽くすまで吐き、顔がむくみ、髪の毛が一気に抜けた。僕は千恵の手を握り、体をさすってやることしかできなかった(2000年夏)