胸に迫る「悲しみ」
亡き妻千恵が遺したいくつかのブログをプリントして保管している。
彼女が2007年5月28日に投稿した「怒りを覚える」も、そのひとつ。
文中には「絶対」という断定的な言葉が何度か出てくる。
人のことを悪く言わない千恵が、「嫌いだ」と書くことも珍しい。
誤解を招きそうな少し乱暴な表現にも衝撃を受けた。
その相手が誰なのか。どんな言葉を浴びせられたのか。僕は千恵に聞かなかったが、「怒り」の中には「理解してもらえない悲しみ」も含まれていたのではないだろうか。ひょっとしたら、泣きながら書いたのかもしれない。そう思えるほど、千恵の「悲しみ」が胸に迫ってくる。
生後9カ月の娘が母乳を飲まなくなったため、粉ミルクに切り替えた。その後、病院で検査すると、がんが肺に転移していた(2003年11月)
怒りを覚える 〜人をうらやましがってはいけない〜(2007年5月28日)
私は滅多に怒らない。
でも、今朝はめずらしく、怒った。
こんな怒った感情のままでは、午前中を気持ちよく過ごすことはできないので、書こうかどうしようかぎりぎりまで迷ったが、またこのようなことを思われるのも嫌なので、思い切って書くことにした。
どういうことかというと、「あなたはいいな、うらやましい」と、一部の人から思われているようだ。
「家族がいていいな、仕事もできていいな、ご飯が食べられていいな、、、、」
「いいな、いいな」と、どこまで思うつもりだろうか。
何をどう基準に、人のことをうらやましがるのか。理解に苦しむ。
私は、決して、他のがん患者さんをうらやましがったりしない。
他のがん患者さんのブログも読ませていただいている。
がんの友達も、たくさんいる。
再発している人も、していない人も、人のことをうらやましがったりする人は、いない。
みなさんそれぞれに、病の場所は違えども、苦しみながらも前向きに一生懸命生きている。
それを読んで、私もまた更に前向きになっているのだ。
もちろん、がん患者さんに限らず、人のことをうらやましがるのは、やめている。
誰しも、隣の芝生は青く見えるものだ。
私がどういう経緯でがんになり、手術をし、再発をし、治療をし、仕事をやめ、家族を抱え、どんな気持ちで、これまで過ごしてきたのか。詳細に書いたとしても、その方に理解はしてもらえないのだろうかと思うと、怒りを通り越して、脱力さえする。
人はみな、必ず何かを抱えて生きている。
私はそれが、たまたま「がん」だっただけで。
がんになってから、人からの悩みを打ち明けられる機会が増えたように思う。
それは、いいことだ。
力にはなれないことが多いが、話だけだったら、いくらでも聞くことはできる。
自分が経験してきたことで、困った人が救われるならば、こんなにうれしいことはない。
それはそれは、みんな、大きなものを背負って生きているということが、わかる。
でも、どう生きるかは、その人次第だ。
悩みがあっても、抱えている物が大きくても、笑顔で乗り越える人。
乗り越えられなくても、さらに踏ん張って生きている人。
山ほど知っている。
人のことをうらやましがってばかりで、何もしない人は、大嫌いだ。
後ろ向きに生きるのか、前向きに生きるのか。
それが、人間の生きる道の分かれ道。
前原の酵素風呂の先生は、こう言った。
「思い悩むな。思い悩んだら、本当にその通りになる」と。
再発するかもしれない、転移をするかもしれない。
がんの患者さんなら、誰しも抱えている悩みだ。
でも、「そればっかり考えて生きていたら、本当に再発する。
死ぬ準備ばかりしている人は、本当に死にます」と、先生は説く。
大いなる勘違いをしている人がいる。
どの親から生まれるとか、生まれた国とか場所とか。そんなのは宿命で決まっているので、自分の力ではどうにもならない。
でも、運命は、自分で切り開くことができる。
変えることだって、いくらでもできるのだ。
毎日、自分の布団で眠ることができて、ご飯が食べられて、道を歩いていても銃で撃たれることもなくて、ちょっとでもいいから仕事ができて、社会とつながりが持てて。
そんな幸せな日本という国に生まれたことが、幸せだと感じられない人は、今銃撃に苦しむ国に一度行けばいい。
毎日の食べ物さえ食べられなくて、飢え苦しみ、死ぬ子どもたちがいる国に、一度行けばいい。
私は、幸せだ。
がんでも、こうやって毎日目を開け、人と出会い、支えられ、生きている。
旦那に何か起こったら?
ムスメが20歳になるまで生きていけるのか?
不安だって、いっぱいあるんだ。
それを、表に出すか出さないかの違いだ。
厳しいことを書きました。
公の場に、こんな怒りの気持ちをぶちまけてよいのかどうかも、迷いました。
この日記は、怒りのマイナス感情100パーセントなので、そのうち、削除します。
怒りの気持ちは、肝臓に悪いからね。
でも、本当に、人のことをうらやましがるのは、金輪際やめにしてほしい。
何度も言うけれど、人は必ず何かを抱えて生きていかなかればいけない生き物。
自分の苦しみに、人を巻き込んではいけない。
どんなに苦しい状況になっても、立ち上がるのは、自分。
いくら周りが元気づけたところで、自分の中に「よいしょ!」と立ち上がる力がなければ、絶対に起き上がることはできない。
今持っている自分の命を大事に思えない人は、今、必死で生きていこうとしている人に、命をあげてください。
人生に、今後何が起ころうとも、
絶対に、あきらめてはいけない。
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