料理には人を幸せにする力がある

 

亡き妻千恵の夢は、料理の本を出版することだった。

その夢は、娘のはなが引き継ぎ、実現させた。本のタイトルは「はなちゃん12歳の台所」。妻が娘に言い聞かせた「ちゃんと作る、ちゃんと食べる」を具現化した本だ。

 

千恵がはなに作り方を教えた「みそ汁」やフライパンで玄米を炒り、塩をまぶした「炒り玄米」など23品のレシピと8本のコラムで構成されている。千恵と親交の深かった料理家のタカコナカムラさん=東京都大田区=が監修した。


千恵亡き後、はなが覚えた料理も収録。肉を使わない「ジャージャー麺」、「パパの笑顔を取り戻す〝特効薬〟」の「三色丼」、ステンレス鍋の保温力を利用して作る省エネ料理の「洋風重ね煮」、根菜汁を小分けして冷凍し、必要なときに解凍して使う「自家製冷凍食品」など、料理のレパートリーは大幅に増えた。

 

コラムでは、千恵の教えを受け継ぎ、今どのように暮らしているかについて触れている。

僕の血圧を下げようと、薄味のおかずを夕食に一品作ることを「することリスト」に追加。包丁研ぎを通じて「丁寧な暮らしの意味が分かった」ことや「大学では栄養学を勉強し、みそ汁カフェを開きたい」などと将来の夢もつづっている。


千恵は亡くなる4カ月前、自宅にタカコさんを招き、料理講座を開いた。タカコさんが提唱する野菜の皮や根っこを丸ごと使う調理法を学び、わが家の食卓に取り入れた。そのレシピをブログに掲載すると、人気ランキングで全国1位になることもあった。

 

タカコさん(右)を自宅に招いて開いた料理講座(2008年3月19日)


「このレシピをまとめたら、本になるかなあ」

僕がうなずくと、千恵は手をたたいて喜んだ。
2015年11月。千恵がまいた種を、はなが本にして実らせた。


家庭の事情で満足に食事ができない子どもの居場所を提供する「子ども食堂」の取り組みが広がっている。そんな子どもたちにこそ、この本を手に取ってほしい。
「台所がわたしを強くしてくれました」「ママがわたしにしてくれたように、親子で一緒に作ってくれたらうれしいです」(本書「はじめに」)。

千恵もきっと、そう願っているはずだ。

 

レシピ本の撮影(2015年8月15日)

 

妻の残したザルに梅を干す娘(2015年8月15日)