誰にでも寛容な場所

 

由布市湯布院町の温泉旅館「蔓蕩蒼(まとうそう)」をチェックアウトし、人気カフェなどが並ぶ「湯の坪街道」に車で向かう途中だった。

 

助手席の娘がつぶやいた。

 

「やっぱり、あそこがいいや」

「あそこって?」

「小学生のころ、パパがいつも連れて行ってくれた山の中にあるカフェ」

 

友人の古岡夫妻が耶馬溪の山奥で経営する「豆岳珈琲」のことだった。

そこは、由布院温泉から車で約90分ほど離れた場所にある。

 

「こっちの有名なカフェじゃなくていいの?」

「うん、あそこがいい」

 

僕たちは、予定を変更して耶馬溪に向かった。

 

耶馬溪の紅葉はまもなくピークを迎える

 

見落としてしまいそうな小さな看板

 

古岡さんが焙煎した豆を奥さんがドリップしてくれる

 

スイーツはすべて手作り。パパは、カボチャのプリンとコーヒーを注文

 

娘は、リンゴのタルトタタンとカフェオレのセット

 

思えば、妻を亡くした後、何度もこの店に通った。

ここ数年、娘も親子で行動を共にすることを嫌がる年頃だったこともあり、すっかりご無沙汰していた。訪れたのは10年ぶりぐらいだろうか。

それでも、古岡夫妻は、僕たち親子を笑顔で迎えてくれた。

 

コーヒーを飲みながら、4人で語り合った。

娘は、大学卒業後の進路や夢を古岡夫妻に打ち明けていた。

いつもは胸の奥にしまっている思いも、ここに来ると話してしまうのだ。

気づくと、ずいぶん時間が過ぎていた。

このカフェには、そんな寛容さがある。

 

娘と犬と古岡さん