最新機種のインターホンを設置
娘が生まれた年に購入した自宅マンション。
20年も経つと、至るところにガタがくる。
洗面所の電気はついたり消えたり。
蛇口は閉めてもポタポタと水が止まらない。
風呂とトイレも当時は最新式だったが、すっかり古びてしまった。
来年早々にも、思い切って、リフォームをするつもりだが、
耐用年数が迫っていたマンション共有部分のインターホンだけ、
管理組合の負担で新しい機種に交換することになった。
古いインターホンには、亡き妻千恵がメモ紙を貼っていた。
メモ紙には、千恵の字で「おしたらいかんよ」「非常ベルやけんね」と書かれていた。
わが家を訪れていた義母が、解錠ボタンを押したつもりが、間違って非常ベルを鳴らしてしまい、何度か大騒ぎになったからである。もう誰も間違えることはないのだが、メモ紙に千恵を感じていたから、ずっと貼り付けたままにしていた。
10月23日、新しい機種のインターホンが設置された。受話器はなく、トークボタンを押せば通話できる。画面はカラーで鮮明。留守設定ができたり、最大50件の録画も可能だ。
「じゃあ、これは処分しますね」
古いインターホンを取り付け業者の男性が引き取ろうとしたそのとき、
僕はメモ紙をはがし取った。
手元に残った色褪せたメモ紙。
さて、どうしようか。
僕は忘れっぽい。
どこかに保管していても、
きっと、忘却の彼方に追いやられるのは目に見えている。
そうだ。
本人に返却すればいいのだ。
落ち着いた。
ここなら絶対なくさない。